そんな疑問に答えます。
すべての醤油に書かれているわけではありませんが、大半の醤油にはアルコールの文字があります。アルコールが入っているとなると、気になるのがアルコールの影響ですよね。
この記事では、アルコールは何のためにどのくらい入っているのか、子どもや妊婦さんには影響がないのか、などについて解説をしていきます。
醤油にアルコールが入っているって本当?
醤油にアルコールが入っているのは本当なのか?と聞かれれば、ズバリ答えはYESです。まずは、醤油にアルコールが入っている理由と、アルコール度数はどれくらいかについて、解説していきます。
アルコールは醤油にもともと入っている
醤油は日本酒やワインと同じように、原料を酵母で発酵させて作る醸造食品です。日本酒の場合はお米、ワインは果物、醤油は大豆と小麦を発酵させて作ります。
日本酒やワインの主成分がアルコールであるのと同じように、醤油にもアルコールが含まれています。言い換えると、醤油に含まれるアルコールは、原料の大豆や小麦を発酵させる過程で作り出される成分なのです。
酵母による発酵によって作られる醤油のアルコール分は2%前後。アルコール分(濃度)=アルコール度数なので、アルコール度数で言うと2度前後ということになりますね。
醤油のアルコールが生成される過程
醤油を作るには、まず蒸した大豆と炒った小麦に麹菌を加えてしょうゆこうじを作ります。しょうゆこうじに食塩水を加えてもろみを作り、それを6ヶ月から1年ほどかけて発酵・熟成させ、搾ったものが醤油です。
もろみを発酵させると、麹菌の分解酵素によって大豆はアミノ酸に、小麦はグルコース(ブドウ糖)に分解されます。
そして、酵母の働きによってアミノ酸の一部から高級アルコールが、グルコースの一部からはエタノールが生成されます。
醤油におけるアルコールの役割とは?
醤油においてアルコールはとても重要な働きをします。アルコールの役割は大きく分けると2つあります。
ひとつは醤油の香りを作り出す役割です。醤油独特の芳香は300種類以上もある香気成分が混ざり合って作り出されます。
アルコールも300種の醤油の香気成分のうちのひとつです。フタを開けた時にふんわりと醤油が香るのも、アルコールの揮発によるものだと言われています。
そしてもうひとつの役割は、劣化を防いで日持ちを向上させることです。低濃度のアルコールには、醤油に発生する微生物の増殖を抑える働きがあります。
アルコールには白カビ防止効果もある
醤油を放置すると表面に白カビが生えることがあります。この白カビの正体は産膜酵母という微生物。
好気性(代謝に酸素を必要とし、空気のあるところで増殖する微生物)の酵母なので、空気に触れている醤油の表面に生えます。
産膜酵母は醤油の他、味噌、ワイン、漬物、チーズなど発酵食品の表面でよく見られます。ちなみにカマンベールチーズの表面の白カビも産膜酵母の一種です。
産膜酵母自体は食べても体に害を与えることはありませんが、醤油の産膜酵母はシンナーやカビのような不快な臭いの元になるため、醤油の風味を損なう原因になってしまいます。
醤油のアルコールは産膜酵母の増殖を抑え、品質の劣化を防ぎます。
※醤油の賞味期限や保管方法などについては、こちらの記事も参考にしてみてください。
醤油の原材料表示のアルコールの意味は?
醤油のアルコールは醸造過程で作られるものであると説明してきましたが、原材料表示に表記されている『アルコール』は、発酵によって自然に作られたアルコールではないのです。
ここからは、原材料表示にあるアルコールがどういうものなのかについて解説します。
アルコールは一般飲食物添加物の一種
醤油の原材料表示に書かれているアルコールは、食品添加物として別途醤油に添加されているものなのです。醤油に添加するアルコールは、厚生労働省の分類では「一般飲食物添加物」です。
「一般飲食物添加物」とは、いつもは普通に食べられているけれども、製造時に別の目的のために食品添加物として使用される食品のことを言います。
アルコールの他にも、レモン果汁、小麦粉、ココア、卵白など約100品目が、一般飲食物添加物に指定されています。
ココアを例にあげると、普段は飲用や原料として利用される食品ですが、茶色い色を付ける着色料の用途で入れる場合は添加物の扱いになるというわけです。
なぜわざわざ追加で入れるの?
醤油にはもともとアルコールが含まれているのに、なぜわざわざ追加で添加する必要があるのでしょうか?
醤油は麹菌や酵母などの微生物の力を利用して作られる食品です。工場では温度管理等をしっかりと行っていますが、もろみの発酵自体は自然の力に頼るしかないので、どうしても出来上がりにバラツキが出てしまいます。
発酵・熟成過程で生成されるアルコールの量が少ないと、微生物が増殖して劣化しやすくなるため、一定の濃度を保つためにアルコールを添加するというわけです。
醤油では『アルコール』と表記されていることが多いですが、『エタノール』や『酒精』と表記されている商品もあるようです。
火入れとアルコールの関係
一般的な醤油はもろみから醤油を搾った後に、殺菌や品質を安定させるための『火入れ』という工程を行います。
酵母や乳酸菌などの微生物が生きたままだと、醤油の熟成がどんどん進んでしまいます。そこで、熱を加えて微生物の働きを止めてしまうのです。
火入れの温度や時間は、醤油の種類や状態によっても変わりますが、70~80℃前後で数十分間加熱するのが一般的のようです。
アルコールの沸点は78℃と低めなので、熟成によってせっかくできたアルコールが火入れの段階で多少揮発してしまいます。
アルコールを別途添加するのは、火入れで揮発してしまったアルコール分を最後に補うことで、アルコール度数を調整するためでもあります。
ビール並みのアルコール度数の醤油も!
微生物が増殖しやすいかどうかは水分活性やpHに関係しています。醤油の場合は、塩分と全窒素量(アミノ酸の量)が多ければ多いほど微生物は増殖しにくくなります。
普通の醤油は、最終的にアルコール度数が2~3度になるように調整しているようですが、全窒素量の多い特選醤油など、アルコールを添加していない商品も存在します。
逆に、減塩醤油ではアルコール度数が5度程度と、ビール並みのアルコール度数の商品もあります。アルコールを添加していない商品でも、多少のアルコールは含まれているので注意してくださいね。
醤油のアルコールで酔っぱらわないの?
醤油のアルコール分は一般的には1~3%、高いものでは5度くらいになるものもあります。一方、一般的な市販のビールのアルコール分は5%で、酎ハイやサワーなどは3~5%くらいです。
この数字を見ると、醤油のアルコールで酔わないのか気になりますよね?酔うのかどうかを探るために、数値で比較してみましょう。
わかりやすいように、一般的な醤油のアルコール分は酎ハイと同じ3%、減塩醤油などアルコール度数が高めの醤油は、ビールと同じ5%として比較してみます。
飲酒運転にならないの?
道路交通法では、酒気帯び運転は呼気中アルコール濃度は0.15mg/Lが基準値となります。 血中アルコール濃度に換算すると0.03%です。
体重50kgの人と70kgの人が、それぞれ酎ハイ(アルコール分3%)とビール(アルコール分5%)をどれくらい飲むと、血中濃度が0.03%になるのかを概算で出してみました。
一般的な醤油 (アルコール分3%) ※酎ハイと同程度 | 減塩醤油など (アルコール分5%) ※ビールと同程度 |
|
---|---|---|
体重50kg | 415ml | 245ml |
体重70kg | 580ml | 345ml |
醤油のアルコール分も酎ハイやビールと同じくらいですが、醤油はここまで量を飲むことはあり得ませんよね。
ちなみに、体重50kgの人が醤油を小さじ1杯食べたとすると、血中アルコール濃度は酒気帯び運転の目安の値の1/100、70kgの人なら1/120。この数値から見ても、醤油を食べてから運転しても問題ないと言えるでしょう。
子どもや赤ちゃんへの影響は?
次に子どもが醤油を小さじ1杯(5mL)を食べた時の血中アルコール濃度と、体重50kgの大人が酎ハイを何mL飲むと同程度の血中アルコール濃度になるかを計算してみました。
醤油小さじ1杯の 血中アルコール濃度 | 体重50kgの人が飲む 酎ハイの量に換算 |
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9ヶ月(体重8.5kg) | 0.0021% | 30ml |
3歳(体重14kg) | 0.0013% | 18ml |
6歳(体重21kg) | 0.0009% | 12ml |
12歳(体重44kg) | 0.0004% | 6ml |
例えば、離乳食で調味料を使い始める目安となる9ヶ月の赤ちゃんが小さじ1杯の醤油を食べたとします。その場合の血中アルコール濃度は、体重50kgの人が酎ハイを30mL(大さじ2杯)飲むのと同じくらいということになります。
実際には、子どもが醤油小さじ1杯分をそのままかけて食べることはまずないと思いますが、心配なら加熱してアルコールを飛ばしてから食べるようにするとよいでしょう。
妊娠中に食べても大丈夫?
妊娠中のアルコール摂取についてはさまざまな考え方があるようです。
例えば日本産婦人科学会では、1日に350mL未満のビールのアルコール量なら、胎児の奇形に影響するリスクは少なくなるという見解を出しています。
一方、厚生労働省は、少量でも飲酒は胎児に影響を与える可能性があるので、妊娠中は禁酒した方がいいと言っています。
ですから、妊娠中に醤油のアルコール分が問題ないのかどうかをはっきりと言うことはできませんが、参考までに「醤油のアルコール分は市販の缶酎ハイと同程度」と覚えておくとよいでしょう。
心配なら、加熱して醤油のアルコール分を完全に飛ばしてから使うと安心ですね。
醤油のアルコールを飛ばす方法
和食の手法に、料理酒やみりんのアルコールを飛ばす「煮切り」というものがありますが、醤油のアルコールを飛ばす場合も同じ方法で行うとよいでしょう。
やり方は、醤油を小鍋に入れて火にかけ、数十秒間沸騰させるだけ。電子レンジで加熱してもOKです。
その際、少量だったり火が強すぎたりすると焦げやすいので注意してください。水分が少なくなったら少し水を足すとよいでしょう。
アルコールを完全に飛ばすことは難しいですが、煮切りをすることでアルコール分をかなり減らすことができます。
まとめ:醤油のアルコール分は酎ハイ並み!気になるなら加熱を!
醤油は、原料の糖質やタンパク質が製造過程でアルコールに変化するので、1~5%程度のアルコール分が含まれています。しかし、醤油の場合、1回に使う量が少量なので、それほど神経質になる必要はないでしょう。
どうしても気になるのであれば、醤油を沸騰させてアルコール分を飛ばしてから使うようにすると安心ですね。