このような疑問を持ったことはありませんか?
すき焼きや焼き肉などの料理に使うことの多い牛脂ですが、牛脂そのものを好んで食べる人もいます。また牛脂を食べるダイエット方法も話題になっているようですね。
そこで気になってくることは、牛脂は身体に悪くないのか?安全に効果的なダイエットができるのか?という点ではないでしょうか。
今回は「牛脂をそのまま食べる」ことにスポットを当て、身体への影響やダイエット効果について調べてみました。
目次
牛脂をそのまま食べる?食べない?世間の動向を調べてみた!
インターネットやSNSなどを見ていると、すき焼きなどに使った牛脂が好きだという人と、牛脂はまったく食べないという人に分かれるようです。
まずは、世間の人たちが牛脂を食べる理由と食べない理由について調べてみました。
牛脂を食べる派の意見
SNSを見ていると、牛脂を好んで食べる人も決して少なくないことがわかります。
なかでも多かったのが、すき焼きで最初に肉を焼くために使った牛脂をそのまま煮込んで食べるという人です。
じっくりと煮込んで脂を出し、割り下をたっぷりと吸わせてから食べることが好きという人は意外に多いようですね。
すき焼きの他には、焼き肉で他の肉と同じように焼いて食べるという人もいました。
・すき焼きで煮込んだ牛脂のトロトロ感がたまらない
・塩コショウで焼いてそのまま食べるのがすごく好き
・良い肉の牛脂ならそのまま食べてもおいしい
・ステーキを焼いて溶けきれなかった牛脂を小さく切って肉と一緒に食べるのが好き
牛脂のトロトロした食感が好きな人はすき焼きで煮込み、牛脂の味自体を楽しむ人は焼いて食べる人が多いようです。
牛脂を食べない派の意見
一方で、牛脂を食べない派の人も多くいるようです。
このように、そもそも牛脂を食べるという概念がないという人も多いようです。その他にも、牛脂を食べない派の人には次のような意見が見られました。
・想像するだけで胸やけしそう
・昔、食べたら気持ち悪くなった
・身体に悪そうだから食べない
・脂っこいから食べない
・子どもの頃は好きだったけど、今は胸やけがするから食べようと思わない
食べない派は、脂っこい、身体に悪そう、胸やけがするという理由が多いようです。その一方で、食べる派の人のなかには、胸やけがするのにおいしくて止められないという人もいました。
牛脂をそのまま食べると健康に悪い?身体に与える影響は?
牛脂を食べない派の意見では、身体に悪そうなイメージがあったり、食べると胸やけがしたりするという理由が多かったですよね。
では、牛脂を食べることは身体に良くないのでしょうか?栄養面から牛脂を検証してみましょう。
牛脂の栄養成分
まず、精製ヘットと牛脂(背脂)の主な栄養素を見てみましょう。わかりやすいようにバターと比較をしてみました。
エネルギー (Kcal) | 水分 (g) | たんぱく質 (g) | 脂質 (g) | 飽和脂肪酸 (g) | 不飽和脂肪酸 (g) |
|
---|---|---|---|---|---|---|
牛脂(精製ヘット) | 869 | 0 | 0 | 99.8 | 41.0 | 48.6 |
和牛肉 背脂 | 674 | 17.7 | 4.2 | 78 | 26.4 | 43.2 |
乳用肥育牛肉 背脂 | 703 | 15.6 | 3.7 | 80.5 | 32.7 | 40.6 |
輸入牛肉 背脂 | 653 | 19.9 | 5.7 | 73.1 | 34.4 | 29.3 |
有塩バター | 700 | 16.2 | 0.6 | 81 | 50.5 | 20.1 |
精製されたヘットはほぼ脂質のみ、精製していない牛脂の背脂は多くの脂質と少量の水分でできていることがわかりますね。また、精製していない牛脂にはたんぱく質も少量ですが含まれています。
表に示した成分以外には、脂溶性のビタミンA、E、Kが少量含まれていますが、カルシウムや鉄分などの無機質はほとんど含まれていません。
飽和脂肪酸の量が問題!
牛脂はほとんどが脂質なので、食べすぎるとカロリーオーバーになってしまうことは容易に想像が付きますよね。
さらに、脂質は性質によって飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられますが、特に注意したい要素が飽和脂肪酸の量です。
厚生労働省では、日本人成人の1日の脂質の摂取目標量を必要エネルギーの20%以上30%未満、飽和脂肪酸の摂取目標量を摂取エネルギーの7%以下と定めています。
活動量が「ふつう」の人の脂質と飽和脂肪酸の目標量をグラム換算すると以下のようになります。
男性 | 女性 | |||
---|---|---|---|---|
脂質の摂取目標量 (g) | 飽和脂肪の酸摂取目標量 (g) | 脂質の摂取目標量 (g) | 飽和脂肪酸の摂取目標量 (g) |
|
18~29歳 | 58.9以上88.3未満 | 20.6以下 | 44.4以上66.7未満 | 15.6以下 |
30~49歳 | 60.0以上90.0未満 | 21.0以下 | 45.6以上68.3未満 | 15.9以下 |
50~64歳 | 57.8以上86.7未満 | 20.2以下 | 43.3以上65.0未満 | 15.1以下 |
脂質の摂りすぎは肥満を招き、生活習慣病のリスクを高めます。
なかでも飽和脂肪酸を摂りすぎると血中のLDL(悪玉)コレステロールが増え、その結果、動脈硬化や心筋梗塞などの循環器疾患を招くリスクが高まるので注意が必要です。
どれくらいなら牛脂を食べても大丈夫なの?
飽和脂肪酸は肉類の他、乳製品や卵などの動物性たんぱく質に含まれています。含まれる飽和脂肪酸を比較すると以下のようになります。
食品名 | 飽和脂肪酸の量 (g) |
---|---|
精製ヘット 1個(10g) | 4.1 |
2cm角の牛脂(8g) | 2.6 |
牛肉リブロース 100g | 15.1 |
牛肉もも 100g | 5.1 |
豚ロース 100g | 7.8 |
鶏もも肉 100g | 4.4 |
牛乳 200ml | 4.8 |
6pチーズ 1個 | 2.9 |
卵 1個 | 6.2 |
成人の飽和脂肪酸の摂取目標量は、男性が20~21gで女性が15~16g。
ですから、仮に1日のうちに他の動物性たんぱく質をまったく食べないとするなら、以下の量であれば牛脂を食べても問題ないということになりますね。
・袋入りの精製ヘット(1個・約10g):男性は約5個、女性は約3.6個
・精製していない牛脂:男性は60g(4cm角くらい)、女性は45g(3.5cm角くらい)
しかし、上の表を見るとわかるように、飽和脂肪酸は他の動物性たんぱく質にも含まれています。ですから、実際には他に食べる動物性たんぱく質の量も合わせて考慮する必要があります。
牛脂は身体に悪い要素ばかりではない!
飽和脂肪酸を多く含む牛脂をたくさん食べると健康に害を及ぼすリスクがあることは事実です。しかし、その一方で、牛脂には身体に良い影響を与える要素もあります。
その要素が、不飽和脂肪酸、なかでもオレイン酸を多く含んでいることです。
オレイン酸には、体内の余分なコレステロールを回収するHDL(善玉)コレステロールを減らさずに、身体に悪い影響を与えるLDLコレステロールだけを減らす効果があることで知られています。
代表的な油脂に含まれるオレイン酸の量を比較してみましょう。
油脂の種類 | オレイン酸 (%) |
---|---|
和牛肉 背脂 | 50.2 |
ベニ花油 | 78.4 |
オリーブ油(輸入) | 75.2 |
なたね油 | 64.2 |
こめ油 | 43.6 |
ごま油 | 39.7 |
とうもろこし油 | 30.7 |
オレイン酸は植物油に多い脂肪酸ですが、牛肉にもかなりの量のオレイン酸が含まれていることがわかりますね。
特に上質の和牛にはオレイン酸が多く、なかには脂分全体の6割以上のオレイン酸が含まれている品種もあります。
また、最近では、牛脂に含まれるステアリン酸のように、HDLコレステロールを増やし、LDLコレステロールを抑える飽和脂肪酸があることもわかってきました。
牛脂をそのまま食べるとおいしいの?
牛脂が好きという人も多いようですが、そもそも、牛脂は食べておいしいものなのでしょうか?
牛肉のおいしさは脂の質が重要!
A4ランクやA5ランクに分類される上質な牛肉には、キレイなさし(赤身の中に脂身が折り目状に入っている状態)が入っていることからもわかるように、牛肉のおいしさを生み出す、味、香り、食感のすべてに脂身が深く関わっています。
特に脂身のなかの不飽和脂肪酸という成分が重要な働きをしているのです。
例えば、和牛がおいしく感じられるのは、口に入れた瞬間に融点の低い不飽和脂肪酸が溶け出すためですし、和牛独特の甘い香りも不飽和脂肪酸の酸化によって生まれます。
特に、不飽和脂肪酸の一種であるオレイン酸の量は、牛肉のおいしさを決める指標としても用いられています。
つまり、牛脂の質が牛肉のおいしさを決めると言っても過言ではない、ということになりますね。
味の良いおすすめの牛脂の部位や品種
牛脂として出回っている主な部位には、ケンネ脂、チチカブ脂、背脂がありますが、口溶けの良い上質な牛脂は、背脂>ケンネ脂>チチカブ脂の順と言われています。
また、牛肉のおいしさを決める不飽和脂肪酸の量は、和牛>国産牛(主に乳牛種)>輸入牛の順に多く含まれています。
牛脂の部位や品種については以下の記事で詳しく紹介しているので、合わせて参考にしてみてください。
牛脂は、和牛でランクが高ければ高いほどおいしくなると言えますね。ただし、ランクが上がればそれだけ価格も上がるので、普段使いには手頃な価格の和牛のケンネ脂がおすすめ。安価でも十分なおいしさを味わえます。
すき焼き?焼き肉?牛脂をおいしく食べる方法は?
牛脂をおいしく食べる方法は大きく分けて2つあります。
ひとつ目は、焼き肉やステーキに代表される”焼く”調理法。牛脂の甘さや香りをそのまま味わいたい人におすすめです。
焼いて油を落とすことで、カロリーダウンもできますね。牛脂をタレに漬け込んでから焼いて食べる人もいるようです。
そして、もうひとつがすき焼きに代表される”煮る”調理法。牛脂を煮込んだ時に味わえるトロトロの食感が好きな人におすすめです。
すき焼きの他、スープやシチュー・カレーなどに入れて煮込んでも良いですね。牛脂によって全体のコクも出るので一石二鳥です。
牛脂を煮込むとトロトロになるのは、煮込むことで牛脂に含まれるコラーゲンが水溶性のゼラチン質に変化をするためです。
長く煮込めばゼラチン質が増えるので、すき焼きの牛脂を食べる場合はできるだけ後の方で食べるとよりトロトロの食感を味わえます。
牛脂を食べると痩せる?牛脂ダイエットの効果と大きな落とし穴
インターネットやSNSを見ていると、牛脂スープのダイエットに取り組んでいる人がけっこういるようです。牛脂スープのダイエットは、安全に効率よく痩せられるのでしょうか?検証をしてみました。
「断糖高脂質」ダイエットとは?
SNSなどで話題のダイエットは「断糖高脂質」を実践するというもので、「金森式ダイエット」として知られています。
簡単に言えば、エネルギー源を糖質からエネルギー効率の良い脂質に切り替えていき、さらには溜まった脂肪をどんどん燃やす体質を作るという理論。
それにより、痩せやすく太りにくい身体を作るという「ケトジェニック(ケトン体)ダイエット」の進化版です。
「断糖高脂質」ダイエットは、糖をほぼ完全に断ち、たんぱく質と脂質をしっかり摂り、代謝に必要なビタミンやミネラルをサプリメントで完全に補うというもの。
たんぱく質は24時間ごとに摂り、それ以外の時間は脂質を切らさないように脂質を中心に摂ることを推奨しています。
効果は本当にあるの?
提唱者は、2ケ月で32kgのダイエットに成功し、その後リバウンドも起こっていないそうです。また、SNSにも、「断糖高脂質」ダイエットを実践して痩せたという投稿が多く寄せられています。
厚生労働省の資料にも、BMIが30以上の肥満者を対象とした実験で、エネルギー制限のある低脂肪・高炭水化物食よりも、エネルギー制限をしない高脂肪・低炭水化物食の方が大幅な体重低下が認められたという研究結果があると書かれています。
これは、高脂肪・低炭水化物食の場合、エネルギー制限をしなくても、自然と摂取エネルギーが低くなることが理由だそうです。
「断糖高脂質」ダイエットの落とし穴
「断糖高脂質」ダイエットは、エネルギー代謝に関しては理にかなっていると言えるかもしれません。
しかし、この方法の大きな落とし穴は、糖質不足や脂質の過剰摂取による身体への弊害が考慮されていないことです。
「断糖高脂質」ダイエットの提唱者は、主食を肉、サバ缶、卵、牛脂などの動物性食品を中心に、小腹が空いたら牛脂スープや生クリームとMCTオイル(※)入りの紅茶で補うという食事方法を実践しているそうです。
動物性食品には飽和脂肪酸が多く含まれているので、この方法では明らかな飽和脂肪酸の過剰摂取となります。
そのため、中性脂肪は減っても、LDLコレステロールが増加し、結果的に動脈硬化などを起こしやすくなってしまいます。
※MCTオイル:中鎖脂肪酸という成分だけで構成された油。一般的な油よりも約4倍のスピードで分解されると言われている。
さらにWEB上では誤った情報がひとり歩き!
「断糖高脂質」ダイエットは、糖質をゼロに近付け、たんぱく質と脂質を多く摂るというダイエット方法です。
しかし、「金森式ダイエット」で検索してみると、なぜか「1日200gの牛脂を食べるダイエット」となっている誤った情報が多く見られました。
「牛脂を食べるダイエット」として紹介されていて、その内容は、主食を牛脂に置き換えるというもの。
精製されたヘットではなく、精製されていないピンク色の牛脂を1日に200g食べ続けるダイエットとなっていました。
1日に200gの牛脂ということは、2cm角の牛脂が約8gなので25個分ということになりますよね。それだけの量を食べるのは大変だけど、牛脂スープにすると脂が溶けだすので無理なく取れる、というものでした。
「牛脂スープダイエット」は根拠がないので要注意!
牛脂を食べるダイエットは、「断糖高脂質」ダイエットの誤った解釈がひとり歩きして、さらに様々な枝葉が付けられてしまったと想像が付きますね。
実際、1日に牛脂を200gも食べるとそれだけでカロリーは1,400kcalを超えます。
さらに、成人女性の場合だと、脂肪は国が推奨する摂取目標量の約4倍、飽和脂肪酸に至っては6倍近くの量を摂取してしまうことになります。いかに身体に良くないかということがわかりますよね。
もしも、「断糖高脂質」ダイエットに興味があるなら、WEB上の情報を鵜吞みにせずに、提唱者の著書などで正しい情報を入手するようにしましょう!
その上で、信頼できるダイエットかどうかを判断することが重要です。
まとめ:牛脂をそのまま食べるなら健康を害さない範囲で!
SNSなどを見ると、料理に使うのではなく牛脂そのものを食べることが好きだという人は、決して少なくありません。
牛脂は旨味や独特の甘い芳香があり、牛肉のおいしさを決める重要な要素でもあります。
牛脂をそのまま食べることは身体に悪い!というイメージがあるかもしれませんが、むしろ身体に良い成分も含まれています。ですから、たくさん食べすぎなければ健康に害を及ぼすリスクは高くありません。
牛脂をそのまま食べる場合は、身体に悪い影響を与えないように量を守って食べるようにしましょうね。