料理酒といえば、和食をはじめ、中華料理、洋食などいろいろな料理のレシピに登場しますよね。
砂糖やしょうゆなどとともに料理酒も家に常備をしていて、頻繁に使っているのではないかと思いますが、いったいどのような効果があるのか疑問に思ったことはありませんか?
この記事では、調理における料理酒の効果や役割、料理に入れるタイミングなどについて解説します。
目次
料理にさまざまな効果をもたらす料理酒の基本を解説
料理酒は料理にいろいろな効果があるといいますが、そもそも、料理酒とはどのような調味料なのでしょうか?最初に、料理酒の基本について解説します。
料理酒はどんな調味料なの?清酒との違いは?
『料理酒』というものに明確な定義があるわけではなく、広い意味では料理に使う酒全般のことをいいます。そして、狭い意味での料理酒は、塩を加えた料理用の酒『加塩料理酒』のことです。
なぜ、塩を加えてあるのか。それは、調理効果のためではなく、課税をなくすためです。飲用の酒類には酒税法に基づいて、清酒の場合は1Lあたり110円、合成清酒は100円の税金がかかります。
一方、料理酒は製造段階で塩を加えて飲めないようにする(不可飲処理を施す)ことで、飲用の清酒ではなくなるため酒税がかからなくなるのです。
つまり、塩を入れた料理酒は飲用の清酒より安価で購入できるというわけですね。
料理酒は大きく分けると3種類
先ほども少し触れましたが、法律によって料理酒に明確な定義が決められているわけではありません。広い意味では料理に使う酒全般のことをいい、大別すると次の3種類に分けられます。
加塩純米料理酒
原材料が、米、米こうじ、食塩だけの料理酒です。アルコール分は12~14%前後で、塩分は2~3%のものが一般的です。
製造工程は日本酒と同じですが、原料を仕込む際に食塩を加えて不可飲処理をしてから発酵させます。米だけで醸造するため、米本来の風味があることが特徴です。
加塩料理酒
加塩の純米料理酒をベースに、甘味を付けるための水あめ、うま味成分を出すための調味料(たんぱく加水分解物・小麦発酵調味液など)、酸味料、アルコールなどを添加してある加塩料理酒です。純米加塩料理酒より安価で購入できます。
料理用清酒
食塩無添加の料理用の清酒 です。日本酒と同じように米と米こうじと水から醸造されていて、日本酒と同じ「清酒」に分類されます。酒税がかかる分、価格も高くなります。アルコール度数は13~15%程度とこちらも加塩料理酒よりも少し高めです。
仕込み方や熟成期間、麹の種類を変えることなどにより、うま味成分やコクを増やしたり、生臭みを消す効果のある有機酸を増やしたりして、料理に適するように工夫されています。
料理酒と料理用清酒の見分け方は?
食塩を加えて飲用には適さない料理酒と、食塩を加えないで清酒として飲むこともできる料理用の清酒は、どちらも商品名に「料理酒」が含まれていることもあるため、商品名だけでは区別がつきません。
加塩料理酒か料理用の清酒かどちらかよくわからない場合は、原材料名をチェックしてみましょう。原材料名に食塩が入っていれば加塩料理酒、入っていなければ料理用の清酒になります。
また、加塩純米料理酒の原材料は、米、米こうじ、食塩のみです。原材料名に、水あめ、アルコール、たんぱく加水分解物などが入っている場合は加塩料理酒になります。
価格は、料理用清酒、加塩純米料理酒、加塩料理酒の順に高くなるので、こちらも参考にするとよいかもしれませんね。
こんな役割が!料理酒の6つの調理効果を科学的に解説
料理酒以外の調味料は、味を付けるという明確な目的がありますよね。一方、料理酒はそれ自体で味が変わるわけではないのに、和食、中華料理、洋食などさまざまな料理に使われています。
では、料理酒はいったい何のために入れるのでしょうか。料理酒の持つ調理効果について科学的に解説します。
1.素材の臭み消し効果
料理酒のアルコール(エタノール)には、以下の3つの効果で素材の臭みを消す作用があります。
共沸効果
アルコールには、蒸発するときに揮発性の高い臭い成分をいっしょに取り除いてくれる作用があります。
例えば、魚の臭みの原因であるトリメチルアミンという成分は揮発性が高いため、アルコールといっしょに加熱するとアルコールが蒸発すると同時にトリメチルアミンも取り除かれます。
化学反応による消臭効果
主に料理酒に含まれるクエン酸やコハク酸などの有機酸が、不快な匂いの原因となるアルカリ性の成分を中和させて臭みを消します。
例えば、魚にレモンをかけると生臭みが減りますよね。これは、レモンのクエン酸がアルカリ性のトリメチルアミンを中和させるためです。これと同じ効果が料理酒でも起こるというわけですね。
また、肉の臭みの原因は主に脂質の酸化によるものですが、有機酸が酸化を抑えて脂質の酸化臭を発生しにくくしてくれます。
芳香成分によるマスキング効果
日本酒には独特の芳香がありますよね。日本酒の香りを作り出す成分は100種類以上もあると言われていて、これらの香り成分のバランスによって日本酒のさまざまな芳香が生まれます。
料理酒にも日本酒と同じようにたくさんの香り成分が含まれていて、これらの良い香り成分が不快な匂いの成分を覆い隠してくれる効果があります。
例えば、魚にレモンを絞ると中和によって生臭みを消してくれるだけでなく、レモンの爽やかな香りがプラスされて生臭みを感じにくくしてくれますよね。それと同じような効果です。
2.味を染み込みやすくする効果
アルコールは水にも油にもなじみやすいという性質を持っているため、食材に浸透しやすいという特徴があります。
そして、アルコールが食材に染み込む際に、糖分、塩分、うま味成分もいっしょに食材に移行します。食材に味が早く染み込むので、味が均一に仕上がりやすくなるというわけですね。
このことは、実験によって検証されています。水に浸した肉よりもアルコールを加えた水に浸した肉の方が糖分が染み込みやすく、加熱調理の際もアルコールを入れると糖分が肉に染み込みやすくなることが明らかになっています。
3.肉や魚を柔らかくする効果
肉や魚を加熱すると、硬くパサパサになることがありますよね。これは、たんぱく質の熱変性によるものです。
肉や魚を加熱すると、筋肉の繊維やコラーゲンが熱で固まって収縮します。すると、筋繊維が密集し、間にある水分(肉汁)が押し出されて流れ出てしまうことで、肉が硬くなってしまうのです。
肉や魚を加熱する前に料理酒に浸すとアルコールが筋繊維の間に入り込み、加熱してもに水分を保ったままの緩い網目の状態で固まるために、水分が外に流れ出にくくなって柔らかく仕上がります。
アルコールは浸透性が良いので、肉を料理酒に短時間浸すだけでも効果が現れます。
4.肉や魚のエキスが流れにくくなる効果
おいしいステーキやハンバーグは中に肉汁が閉じ込められていて、切ると同時に溢れ出しますよね。
肉汁を閉じ込めた肉や魚がおいしい理由は、肉のうま味成分やエキス分や脂などが肉汁に溶け出ているからです。
加熱によって肉の中の水分が流れ出てしまうと、硬くなるだけではなくうま味やエキス分もいっしょに流れ出てしまうため、肉や魚の味が落ちてしまいます。
加熱する前に肉や魚を料理酒で浸すと肉を柔らかくするだけでなく、同時にエキス分を流れ出しにくくする効果もあります。
5.野菜の煮崩れ防止効果
いも類やかぼちゃなどでんぷん質の多い野菜は煮崩れしやすいですよね。
これは、野菜の細胞と細胞をつなぐ役割をするペクチンという食物繊維が加熱によって溶け出してしまうことと、でんぷんが水を吸って膨張することで細胞を圧迫し、結束が弱くなった細胞をバラバラにしまうことが原因です。
アルコールには、加熱によって細胞同士をつないでいるペクチンが流れ出ることを防いで、煮崩れしにくくする効果があります。
アルコールがペクチンの溶出を防ぐため、でんぷんが膨張しても細胞がバラバラにならず、結果的に煮崩れを起こさなくなるのです。
さらには、煮崩れを防ぐことで野菜の旨味を閉じ込める効果もあります。
6.アミノ酸などにより料理にコクや旨味を出す効果
料理酒は基本的に米と米こうじを発酵させて造ります。醸造過程で米や米こうじの成分が変化して、糖分、アミノ酸、有機酸などを作り出し、料理酒の旨味や甘味などを生み出します。
料理酒を使うことで、これらの成分が料理の旨味やまろやかさを引き出す効果があります。
また、コクは、さまざまな味の成分が複雑に絡み合って生み出されます。
日本酒を造る際に米の表面を削りますが、これは米の表層部分にはたんぱく質や脂質などがたくさんあり、これらが酒の雑味となるためです。
それに対し、料理酒はこれらの雑味がコクと生み出すもとになるために、あえて米の表面を削りすぎないようにして雑味を残しています。
加塩料理酒には不得意分野もある!
料理酒にはたくさんの調理効果がありますが、スーパーなどで一般的に「料理酒」として販売されている加塩料理酒には料理用清酒に比べると落ちてしまう効果がいくつかあるのです。
その理由は、加塩料理酒に含まれている塩分にあります。
加塩料理酒にはだいたい2%前後の塩分が含まれています。海水の濃度が約3.4%なので、それなりの塩分が含まれていることがわかりますよね。
加塩料理酒 | 加塩純米料理酒 | 料理清酒 | |
---|---|---|---|
素材の臭み消し効果 | ◎ | ◎ | ◎ |
味を染み込みやすくする効果 | 〇 | 〇 | ◎ |
肉や魚を柔らかくする効果 | 〇 | 〇 | ◎ |
エキスの流出抑制効果 | 〇 | 〇 | ◎ |
野菜の煮崩れ防止効果 | 〇 | 〇 | ◎ |
うま味やコクを増やす効果 | 〇 | ◎ | ◎ |
アルコールは肉や魚に浸透しやすい性質がありますが、料理酒に塩分が含まれていると、今度は浸透圧が働いて肉や魚の水分が出やすくなって硬くなることがあります。肉や魚の水分が出ると臭み取りには役立ちますが、料理用清酒を使うよりも保水性が低くなり、エキスもいっしょに流れ出やすくなる可能性があるのです。
また、最初から塩分が入っていることで、無塩の料理用清酒よりも食材にアルコールが浸透しにくくなります。そのため、味を染み込みやすくしたり煮崩れを防いだりする効果も料理用清酒よりやや劣ります。料理酒を選ぶ際は、これらのことも考慮するとよいかもしれませんね。
どう使うのが正解?!料理酒の効果を料理に生かす方法を解説
料理酒にはさまざまな調理効果や役割がありますが、具体的に料理にどのように使うとこれらの効果が発揮されるのでしょうか。続いて、料理酒の効果を料理に生かす方法について解説します。
魚介類や鶏肉などの下ごしらえに使う
料理酒を下ごしらえに使う場合は、主に肉や魚の下処理に利用します。料理酒を肉や魚に振りかけたり漬けたりしておくことで、肉や魚の臭みを取り除き、柔らかくジューシーに仕上げられます。
例えば、ブリなどの青魚やエビに料理酒を振りかけると、生臭みを取り除けます。この時に、加塩料理酒を使うと塩分による浸透圧で内部の臭み成分も出すことができますよね。
生臭みを取り除いた後で、さらに無塩の料理清酒に漬けておくと保水性を高めてジューシーに仕上げることができます。
また、鶏の唐揚げの下味を付ける場合は、最初に料理酒に鶏肉を漬けておき、しばらくしてから他の調味料を加えると、臭みを取り除くだけでなく下味も染み込みやすくなります。
煮魚や豚の角煮などの煮込み料理に使う
豚の角煮を作る際に、臭み消しのために長ねぎの青い部分やしょうがなどを入れて下茹でをしますよね。
その時に料理酒もいっしょに入れますが、これにも豚の臭みを消して柔らかく茹で上げる役割があります。
豚肉の匂いが気になる時は、料理酒を少し多めに入れるとよいですね。また、豚の塊肉に料理酒を染み込みやすくするために、竹串で肉に穴をたくさん開けておくとよいでしょう。
煮魚を作る場合にも、煮込む際に臭み消しの目的でしょうがや梅干しを入れますが、料理酒をいっしょに入れることで、臭み消しになるだけでなく、保水効果で煮魚がふっくらと仕上がります。
素材の味を生かす薄味の料理でうま味を発揮!
料理酒を薄味の料理に加えると、他の調味料では出せないようなまろやかな風味の甘味やうま味によって、料理の味にコクや深みを出してくれます。
例えば、料理酒に多く含まれているうま味成分はグルタミン酸です。
グルタミン酸は同じうまみ成分であるイノシン酸といっしょに使うと、相乗効果によってうま味が数倍になると言われています。
イノシン酸はカツオやイワシなどに多く含まれているので、かつお節や煮干しで取った出汁に料理酒を入れることで、うま味がしっかりと効いた出汁を作れます。
薄味の料理は素材の味が生きるので、魚介類や肉などの臭みを料理酒でしっかりと取っておくことも大切ですね。
古くなった米の匂いを消してふっくらと炊き上げる
精米後数ヶ月が経って古くなったお米は、新しいお米に比べると、水分が少ないため炊きあがりが硬くなりパサつく、すえた糠のような匂い(古米臭)がする、炊きあがりのツヤがなくなるなどの傾向が見られます。
しかし、お米3合に対し大さじ1~2杯程度の料理酒を入れて炊くことで、古米臭を消し、ふっくらとツヤツヤとしたごはんに炊き上げることができます。
これは、アルコールの持つ、保水効果、でんぷんの煮崩れ防止効果、そして、化学変化による消臭効果によるものです。
また、安いお米などでおいしさに欠けると感じる場合でも、同じように料理酒を入れて炊くとふっくらとしておいしさが増します。
インスタント臭や冷凍食品臭を消す
カップラーメンなどのインスタント食品やレトルト食品、冷凍食品などには独特の匂いがありますよね。
料理酒の消臭効果には、これらのクセのある匂いを取り除いておいしさをアップする効果もあります。
例えば、カップラーメンやインスタント味噌汁に料理酒を入れると、独特の風味が消えておいしくなりますし、冷凍食品を温める前に料理酒を少量振りかけてから電子レンジで温めると、独特の冷凍臭が和らぎます。
また、レトルトのカレーやパスタソースに料理酒を入れて温めると、レトルト臭が消えておいしさがアップします。
アルコールが飛ばしきれない可能性があるので、子どもやお酒の弱い人、運転前の人は注意が必要ですが、試してみる価値はありますよ。
効果を最大限に生かすために料理酒を入れるタイミングは?
料理の下ごしらえではなく本調理の際に料理酒を使う場合、どのタイミングで入れれば料理酒の効果を最大限に発揮できるのでしょうか。
煮物に料理酒を入れるタイミングは?
和食の味付けをする順番というと、料理の「さしすせそ」が有名ですよね。
砂糖、塩、酢、しょうゆ、みその順番に入れるという意味ですが、砂糖を最初に入れる理由は、砂糖は塩よりも分子が大きいために食材に染み込みにくいという特徴があるからです。
余談ですが、酢、しょうゆ、みそを後の方で入れる理由は、風味が飛ばないようにするためと言われています。
では、料理酒はいつ入れればよいのでしょうか。正解は、砂糖の前です。
アルコールには味を染み込みやすくする効果があるため、砂糖よりも先に入れることで、染み込みにくい糖分を早く染み込ませることができるのです。
野菜の煮崩れ防止には加熱前に!
肉じゃがやかぼちゃの煮物など煮崩れ防止のために料理酒を入れる場合は、加熱前に入れることが鉄則です。煮崩れは、加熱によるペクチンの流出とでんぷんの糊化が原因で起こります。
もう少し詳しく説明すると、でんぷんを水といっしょに加熱すると水がでんぷんの間に入り込んで膨張し、さらに加熱するとでんぷんが糊化(消化しやすいように糊状になること)して流れ出やすい状態になります。
また、細胞同士をつなぐペクチンも熱によって溶けてしまうために、でんぷんが流れ出していもやかぼちゃが崩れてしまうのです。
ですから、加熱してから料理酒を入れるのでは、ペクチンが熱で溶けることを防げませんよね。煮崩れを防止するには水の段階で料理酒を入れるようにしましょう。
ソテーは仕上げに入れて蒸し焼きに!
肉や魚を調理する際は、下ごしらえとして料理酒に漬けると臭みが抜けて柔らかくなりますが、肉や魚をソテーする場合は、仕上げに料理酒を入れて蒸し焼きにすると、ふっくらと柔らかく仕上がります。
その場合は、肉や魚をフライパンで焼き、両面にある程度火が通った状態で、料理酒を50cc程度入れて蒸し焼きにしてしっかりとアルコール分を飛ばすようにしましょう。
肉や魚の表面に薄く小麦粉を付けて焼くと、中の水分を閉じ込めやすいのでさらに柔らかくなります。
また、料理酒を少し多めに入れて蒸し焼きにした後に、みりんやしょうゆなどで味付けをすると肉や魚のうま味が効いたソースも同時に作れて一石二鳥です。
まとめ:料理酒には調理効果が多々!うまく生かしておいしくしよう!
料理酒はレシピに書いてあるので何となく使っている人も多いかもしれませんが、実は、料理酒には肉や魚を柔らかくする効果、臭みを取る効果、煮崩れを防ぐ効果などたくさんの調理効果があります。
どのような効果があるのかを知っておくと、今回紹介した以外にもいろいろなアレンジができるので便利ですよね。
ただし、料理酒には食塩を添加してある加塩料理酒と、食塩無添加の料理用の清酒があります。
加塩料理酒は料理用の清酒と比べると落ちる効果もあるので、それぞれの特徴によってうまく使い分けると良いですね。うまく使うと料理が劇的においしくなるので、いろいろと試してみてくださいね。