醤油の成分を徹底検証!栄養素からおいしさの秘密まで全て解説します

私たちが毎日のように使う醤油は、日本人に欠かせない調味料ですね。

毎日当たり前のように使っていますが、醤油にどのような成分が含まれているかについてはあまり考えないのではないでしょうか?

この記事では醤油の成分に注目し、健康に与える影響から醤油のおいしさの秘密まで、徹底的に探っていきたいと思います。

醤油にはどんな栄養成分が含まれているの?

醤油にはどんな栄養成分が含まれているの?

まずは栄養面から醤油の成分を見ていきましょう。醤油に含まれる栄養成分や、醤油を食べることで体にどのような影響をもたらすかについて解説します。

醤油の3大栄養素

醤油はJAS(日本農林規格)では5種類に分類されています。それぞれの醤油の大さじ1杯(18g)あたりの三大栄養成分・カロリー・塩分を比較してみました。

 

エネルギーたんぱく質脂質炭水化物食塩相当量
こいくちしょうゆ13.91.401.42.6
うすくちしょうゆ10.81.001.02.9
たまりしょうゆ20.02.102.92.3
再仕込しょうゆ18.41.702.92.2
白しょうゆ15.70.503.52.6

※原料の大豆と小麦に含まれるタンパク質は製造過程で全てアミノ酸に分解されるので、タンパク質としては含まれていません。したがって表中の「タンパク質」の数値は窒素量から換算した値です。

健康への影響があるのは醤油の塩分

醤油大さじ1杯あたりの三大栄養成分はいずれも低い数値です。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2020年版」によると、1日に必要なカロリーは18歳~69歳の男性で2,4502,650kcl、女性で1,9002,000kcal。タンパク質は男性で60g、女性で50gです。

摂取基準値から見ても、醤油の三大栄養素はほとんど影響はないことがわかりますね。他のビタミンやミネラルも栄養的なメリットはほとんどないと考えてよいでしょう。

ただし、唯一注意したいのが塩分です。1日の食塩摂取量の基準は、男性7.5g未満、女性6.5g未満。大さじ1杯の醤油で基準値の1/41/3ほどの食塩量になるので、注意する必要があります。

醤油はどの食品群に分類されるの?

家庭科の授業などで、下のような図を見たことがありませんか?

三色食品群と6つの食品群

マヨネーズやドレッシング、砂糖は入っていますが、醤油はどこにも見当たりません。では、醤油はどの食品群に入るのでしょうか?

上記の「三色食品群」や「六つの基礎食品群」は、食育を目的として考えられた食品の分類表です。これらの食品群は、さまざまな食品を

・体をつくるもとになる

・エネルギーのもとになる

・体の調子を整えるもとになる

という3つの働きに沿って分類したものです。

食育用の食品群では、マヨネーズやドレッシングは油の量が多いので油脂類、砂糖は炭水化物に分類され、エネルギーのもとになる食品のグループに入ります。

しかし、醤油や他の調味料は上記の3つのどの働きにも該当しないため、三色食品群や6つの基礎食品群には含まれていないのです。

農林水産省が定める「国民健康・栄養調査食品群別表」では、醤油は17群の「調味料及び香辛料類」に分類されます。

醤油のおいしさは種々の成分が作り出す!

醤油のおいしさは種々の成分が作り出す!

醤油のおいしさは醤油に含まれる様々な成分によって作り出されています。ここからは醤油のおいしさの秘密に迫ってみましょう。

醤油のおいしさの決める三大要素

食べ物をおいしいと感じる要素は味だけではありません。

私たち人間が何かを食べておいしいと感じるには、「視覚」・「聴覚」・「嗅覚」・「触覚」・「味覚」、いわゆる五感の全てが関わっていると言われています。

つまり、見た目、音、匂い、食感、味の全てが合わさって初めて、「おいしい」と感じるということになりますね。

5つの「味」を生み出す醤油の成分

5つの「味」を生み出す醤油の成分

では、醤油のおいしさに関わる3つの要素のうち、「味」を作り出している成分について詳しく見ていきましょう。

醤油には「基本五味」が全て含まれている

味覚には、「甘味」・「塩味」・「酸味」・「苦味」・「うま味」5つがあり、「五味」または「基本五味」と呼ばれています。この5つの割合によって食べ物の味が決まります。

ちなみに、食べ物にはこの5つの味の他に「渋味」と「辛味」もありますが、この2つは味覚ではなく痛覚に分類されます。

五味には相互作用や抑制作用があり、複数の味が組み合わさると味のどちらか一方がより強調されたり、逆にどちらかの味が弱められたりします。

醤油にはこの五味がバランスよく含まれていて、それぞれの味が複雑に絡み合うことでコクが深くなり、独特のおいしさを生み出しているのです。

味をまろやかにする甘味成分

醤油の甘味成分は主に原料の小麦に由来するものです。小麦に約75%に含まれるデンプンは、麹菌に含まれるデンプン分解酵素によって最終的にブドウ糖(グルコース)にまで分解されます。

小麦から分解されたブドウ糖が醤油の甘味の主成分です。同じく小麦から分解された約15種類の糖や、ブドウ糖から変化する糖アルコール、アミノ酸の一種であるグリシンなども甘味成分として働きます。

醤油の甘味は、醤油に甘い味を付けるだけでなく、塩味・酸味・苦味を抑制してまろやかにする働きがあるのです。なかでも、うすくち醤油は塩分濃度が高めなので、米麹や甘酒で甘味を加えることで味にまろやかさを出しています。

醤油の糖分に関してはこちらの記事でも詳しく紹介しています。

発酵度合いにも影響する塩味成分

醤油はもろみを発酵・熟成させて醸造します。もろみとは、大豆と小麦に麹菌を植え付けたしょうゆ麹に食塩水を加えたもので、この時に使用される食塩が醤油の塩味の成分です。

醤油の塩分は約1517%で海水の5倍にもなる濃度です。これほどの塩分濃度でありながら、海水ほどしょっぱく感じないのは、醤油の甘味成分や酸味成分によって塩味を抑制しているからです。

また、塩分濃度は醤油の熟成度合いにも深く関わっています。もろみは、麹菌・乳酸菌・酵母といった微生物が生まれたり消滅したりを繰り返し、ゆっくりと熟成されていきますが、塩分濃度によって微生物の生育や消滅のスピードが変わります。つまり、塩分が熟成の度合いをコントロールしているのです。

醤油のpHを決める酸味成分

醤油の酸味の成分は、乳酸菌や酵母の働きによってブドウ糖から生成される乳酸、酢酸、コハク酸などの有機酸です。有機酸が増えることで醤油のpHが4.7~5.0くらいの弱酸性に傾きます。

実は、食べ物のおいしさはpH45くらいの弱酸性で最もおいしく感じると言われています。醤油のpHはおいしさを感じるのにまさにピッタリというわけですね。

また、酸味の成分のうち最も多く含まれる乳酸には、塩味の角を取ってまろやかにするという効果もあります。

コクになくてはならない苦味成分

醤油を食べた時に苦味を感じることはほとんどありませんが、醤油には苦味成分もわずかですが含まれています。醤油の苦味成分は苦味を持つアミノ酸やペプチド(アミノ酸が複数個結合したもの)など、大豆や小麦のタンパク質が麹菌によって分解されてできた成分です。

醤油を食べても苦味を感じないのは、複数の味によって引き起こされる抑制効果によるもの。甘味、塩味、酸味のマスキング効果によって、苦味ではなく醤油のコクとして感じられるようになります。

おいしさに欠かせないうま味

うま味は他の味覚に比べるとイメージしにくいかもしれませんが、出汁の味と言うとわかりやすいのではないでしょうか。うま味の三大成分には、昆布に多く含まれるグルタミン酸、鰹節に多いイノシン酸、しいたけに多いグアニル酸があります。

醤油のうま味成分は、大豆や小麦に含まれるタンパク質が分解されてできた約20種類のアミノ酸。なかでも最も多いのが三大うま味成分のひとつであるグルタミン酸です。

アミノ酸系うま味成分のグルタミン酸と、核酸系うま味成分のイノシン酸やグアニル酸が組み合わさると相乗効果が生まれ、うま味が倍増することがわかっています。鰹節で取った出汁に醤油を加えて食す和食のおいしさは、理にかなっていると言うわけですね。

うま味は醤油の等級を決める要素のひとつ

醤油のラベルに「特選」や「超特選」という文字を見たことがありませんか?これは、農林水産省が定めた「しょうゆ品質表示基準」による醤油の等級のひとつです。

醤油は、うま味成分の量、色の濃淡、エキス分(無塩可溶性固形分)などの基準に沿って「特級」・「上級」・「標準」の3段階の等級に分けられています。

さらに、特級の醤油のうち、うま味成分の指標となる全窒素分が特級の基準値より10%以上多い醤油は「特選」、20%以上多い醤油は「超特選」と表示できるルールです。

つまり、「特選」「超特選」と書かれている醤油は、うま味成分の量がかなり多い醤油ということになります。

醤油の「色」と「香り」を生み出す成分

醤油の「色」と「香り」を生み出す成分

次に、醤油のおいしさを構成する要素のうち、「色」と「香り」に関係する成分について解説します。

醤油の色は化学変化が作り出す

醤油のボトルを見ると黒っぽい色に見えますが、実際は赤みがかった明るい赤褐色です。この色はもろみの発酵・熟成中に、アミノ酸と糖類が化学反応を起こすことによって作られます。

これは「メイラード反応(アミノカルボニル反応)」と呼ばれる反応で、醤油の場合はアミノ酸とペントースという糖類が結合して、褐色物質のメラノイジンが生成されます。

さらに、熟成終了後の火入れという工程で加熱することで、さらに明るい赤褐色に変化します。

醤油を開封してしばらく置いておくと、だんだん黒っぽい色になっていきます。これは、醤油が酸素に触れることで褐変反応を起こすためです。

色が黒くなるだけではなく、味や香りも劣化してしまうので、醤油は黒っぽくならないうちに使い切るようにしたいですね。

300種類もある香りの成分

醤油の香気成分も、醤油を発酵・熟成させる過程で生成されます。

アミノ酸やブドウ糖に酵母など微生物の力が働いてアルコールや有機酸に変化し、さらに、揮発性フェノール類やエステル、カルボニル化合物などの香気成分が生成されます。

 

※醤油に含まれるアルコールの効果や影響等については、以下の記事で詳しく解説しています。

 

https://kakakunara.com/rakusyoku/syouyu-alcohol/

 醤油の香気成分はなんと約300種類!果物や花の香気成分(エステルやカルボニル化合物)やハムやウイスキー、コーヒーなどの香気成分(揮発性フェノール類)などが複雑に絡み合って、醤油独特の芳香を生み出します。

なかでも、香りの主成分であるHEMFというフラノン化合物は醤油の特微香(特徴的な香り)と言われており、キャラメルのような香りを出すのが特徴です。

醤油を焼くと香ばしくなるのも、加熱によるメイラード反応によってHEMFが生成されるからです。

5種類の醤油の特徴は成分の差によるもの

5種類の醤油の特徴は成分の差によるもの

JASでは5種類の醤油を原料や製造方法に違いによって分類していますが、それぞれの醤油には、味と香りと色に特徴的な違いが見られます

それぞれの醤油のおいしさの違いを、味・香り・色に関係する成分に注目して比較してみましょう。

こいくち(濃口)醤油

普通の醤油とはこいくち濃口醤油のことを指すほど、こいくち醤油は国内で最も需要の高い醤油です。6ヶ月から1年かけてゆっくりと熟成していくので、味や香りを作り出す成分がたくさん作られます。

ですから、味のバランスが良いことに加え、しっかりとした芳香とコクが特徴。5種類の醤油のなかでも最も醤油らしい風味を楽しめる醤油です。

「濃口」という呼び方は味ではなく色に関係しています。濃口という名が付いていますが、色の濃さは5種類の醤油のちょうど中間くらいです。

うすくち(淡口)醤油

国内の醤油出荷量の1割強を占める醤油で、こいくち醤油の次に多く生産されています。

「うすくち」を漢字にすると、「薄口」ではなく「淡口」。つまり、濃口と同じように、味が薄いということではなく淡い色をした醤油という意味です。

うすくち醤油は、食塩濃度を高くすることで発酵・熟成を進みにくくし、敢えて色や醤油独特の風味を作り出す成分の生成を抑えているのが特徴。関西の食文化の特徴である、素材そのもの味や出汁の風味を生かすために生まれた醤油です。

 

こいくち醤油とうすくち醤油の比較については以下の記事でも紹介していますので、参考にしてみてください。

https://kakakunara.com/rakusyoku/syouyu-koikutiusukuti

たまり(溜)醤油

主に東海地方で好んで利用される醤油で、一般的な醤油はほぼ同量の大豆と小麦から作られているのに対し、たまり醤油の原料はほぼ大豆のみ。

水分が少なく大豆のタンパク質から分解されたうま味成分の量が多い上、1年以上の時間をかけてゆっくりじっくりと熟成されるので、濃厚なコクととろみがあるのが特徴です。色も5種類の醤油のなかでは最も濃い色をしています。

小麦を使わずに大豆だけで仕込んでいるたまり醤油もありますが、香り成分を増やす目的で、小麦を1割程度混合して仕込むのが主流になっています。

 

たまり醤油の特徴については以下の記事も併せてご覧ください。

さいしこみ(再仕込み)醤油

一般的な醤油は、大豆と小麦に麹菌を植え付けたしょうゆ麹に、食塩水を混ぜたもろみを発酵・熟成させて作ります。

それに対し、さいしこみ醤油は食塩水の代わりに生揚げ(きあげ)醤油(火入れをしないので微生物が生きたままの醤油)を使って熟成します。醤油を再度仕込むという意味で「再仕込み醤油」という名前が付きました。

微生物が生きたままの醤油を2度熟成させることで味や香りに関係する成分が多くなり、深い味わいと独特の芳醇な香りが特徴。別名を甘露醤油と言い、まろやかな甘みもあります。色はたまり醤油とこいくち醤油の中間くらいです。

しろ(白)醤油

たまり醤油の原料がほぼ大豆だけであるのに対し、白醤油は小麦を主体に仕込んでいて、大豆と小麦の割合は1:9くらいが一般的です。

小麦が多いため小麦由来の独特で豊かな芳香を持ち、糖分が高くまろやかな甘みがあるのが特徴。色はうすくち醤油よりもさらに薄く淡い琥珀色をしています。

低温かつ短期間で醸造されるので発酵が抑えられているので熟成中に作られる成分は他の醤油に比べて少なめです。そのため、色が薄く、コクやうま味も抑えられて淡泊であっさりとした味わいになります。

まとめ:おいしさを生み出す醤油ワールドの成分たち

栄養的な観点からすると、醤油は栄養価に優れているわけではありません。しかし、醤油はおいしさの要素となる味・香り・色が三位一体となっていて、調味料としては秀逸と言えますね。

さらに、醤油は他の素材や調味料と合わせたり加熱したりすることで味に相乗効果が生まれ、お互いの良さをさらに生かせる調味料です。

塩分が多いので使いすぎは禁物ですが、ぜひ醤油をうまく使い分けておいしい料理を作ってみてください。

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