日本ではあまりなじみのなかったココナッツオイルですが、2014年にミランダ・カーをはじめハリウッドのセレブたちが愛用していることをきっかけに、日本でも話題になりました。
近年の健康ブームでココナッツオイルに再び注目が集まっているようです。ココナッツオイルは身体に良い効果があるのでしょうか?さっそく、検証してみましょう。
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目次
ココナッツオイルの効果には脂質の成分が大きく関係!
ココナッツオイルの効果を知るために、ココナッツオイルにはどのような成分が含まれているのかを見ていきましょう。
ココナッツオイルって何?
ココナッツオイルは別名「ヤシ油」と呼ばれていて、ココヤシの実(ココナッツ)の胚乳を絞った液体から油分だけを抽出したものです。胚芽とは、ココナッツを割った時の白い部分のことです。
ココナッツオイルの融点は約24℃。ですから、20℃以下では白い固形、20~25℃では半透明のペースト状、そして、25℃以上では透明の液体になります。
ココナッツオイル自体に味はほとんどありませんが、ココナッツを低温で圧搾してオイルを抽出しただけのバージンオイルには、ココナッツ特有の甘い芳香があります。
ココナッツオイルの栄養成分とカロリー
ココナッツオイルの栄養成分は脂質100%。また、100gあたりのカロリーは889kcalで、他の植物油とだいたい同じくらいですね。
脂質以外の栄養素はほとんど含まれておらず、ビタミンEが100g中に0.3gとほんのわずかに含まれているだけです。
脂質の主成分は脂肪酸です。脂肪酸は、炭素・水素・酸素が結合してできている成分で、結合の仕方によってたくさんの種類が存在します。ココナッツオイル100g中には以下のような脂肪酸が含まれています。
炭素数 | 成分名 | g.0 |
---|---|---|
8 | オクタン酸(カプリル酸) | 7.6 |
10 | デカン酸(カプリン酸) | 5.6 |
12 | ラウリン酸 | 43.0 |
14 | ミリスチン酸 | 16.0 |
16 | パルミチン酸 | 8.5 |
18 | ステアリン酸 | 2.6 |
上の表のうち、カプリル酸とカプリン酸は中鎖脂肪酸と呼ばれています。つまり、ココナッツオイルに含まれる脂肪酸は、ラウリン酸、中鎖脂肪酸、ミリスチン酸の順に多いことになりますね。
中鎖脂肪酸とは?
ここ数年で、健康効果が高い植物油ということで注目を浴びている脂肪酸が中鎖脂肪酸です。
中鎖脂肪酸には炭素数8のカプリル酸(デカン酸)と炭素数10のカプリン酸(オクタン酸)があります。中鎖脂肪酸には、一般的な植物油には見られない大きな特徴があります(後程詳しく解説します)。
ココナッツオイルにも中鎖脂肪酸であるカプリル酸やカプリン酸が、全脂肪酸量の約14%含まれています。
ちなみに、健康効果の高さから注目を浴びている「MCTオイル」は中鎖脂肪酸が100%、つまり、カプリル酸やカプリン酸のみで作られた油です。
ココナッツオイルに含まれる「脂肪酸」の効果
ココナッツオイルの効果を探るために、ココナッツオイルに含まれる脂肪酸のうち、特に特徴的な性質を持つラウリン酸と中鎖脂肪酸が身体にもたらす効果について解説します。
ラウリン酸の特徴的な効果
ラウリン酸は、ココナッツオイルの脂肪酸量の約半分を占めています。
炭素数が12の脂肪酸で、ココナッツオイルの他にバターやクリームをはじめとする乳成分にも比較的多く含まれています。人間の母乳にも含まれているので、わりと身近な脂肪酸と言えますね。
多くの脂肪酸には抗菌・抗ウイルス作用(細菌やウイルスなどの微生物が増殖できないようにする作用)があることで知られていますが、ラウリン酸もそのひとつです。
特に、ラウリン酸は食中毒の原因となる「黄色ブドウ球菌」や胃がんの原因である「ピロリ菌」など、グラム陽性菌という分類の病原菌に対してに強い抗菌作用を持つことが、これまでの研究で明らかになっています。
中鎖脂肪酸の身体への効果
中鎖脂肪酸にはさまざまな栄養生理機能があり、50年以上も前から医療現場で活用されていました。
1990年代になって、一般食用油としての利用が認められてからは、生活習慣病の予防が期待できる効果も注目されるようになりました。
その代表的な効果として、次の3点があげられます。
短時間でエネルギーとなり体脂肪になりにくい
一般的な油脂に多く含まれる長鎖脂肪酸は、小腸で分解されて吸収された後に複雑な経路を通り、分解や再合成を繰り返して肝臓まで運ばれます。
それに対し、中鎖脂肪酸は口や胃の中でほとんど分解されるために小腸ですばやく吸収されて、その後門脈というバイパスを通って直接肝臓まで運ばれることが特徴です。
そして、肝臓ですぐに分解されて身体のエネルギーとして利用されます。
中鎖脂肪酸は、一般的な油脂に多い長鎖脂肪酸の約4倍のスピードで分解されてすぐにエネルギーとして使われるので、使い切れなかった余分な脂肪が体内に蓄積されにくいという特徴があります。
貯まった体脂肪を燃やしやすい
通常、運動時は、エネルギー源として糖質と脂質が平行して使われます。
軽度から中強度(軽く息が上がる程度)の運動では、使われる糖質と脂質はだいたい同程度。それ以上運動強度が高くなると、糖質の割合が増えていきます。
体脂肪を燃やすには軽度から中程度の有酸素運動が効果的ですが、その際に脂質を使う割合が増えると、より効率よく体脂肪を燃やせることになりますよね。
日清オイリオが行った実験では、1日6gのMCTオイルを摂取したグループは、摂取しなかったグループに比べて軽度から中程度の運動時に脂質を多く消費していることがわかりました。
つまり、中鎖脂肪酸には、体脂肪を燃やしやすい効果が期待できるということになりますね。
抗菌作用や認知症予防効果も
この他にも、中鎖脂肪酸にはたくさんの効果が確認されています。代表的な効果には、大腸菌やサルモネラ菌などグラム陰性菌という分類の病原菌に対する抗菌作用や低栄養者の栄養補給などがあります。
その他に、アルツハイマー認知症の予防や改善効果も期待されています。
注意しないと逆効果?!ココナッツオイルの落とし穴
これまで説明してきたように、ココナッツオイルに含まれる脂肪酸にはさまざまな効果が確認されています。
その反面、注意しないと体に悪い影響を与えかねない要素があることも事実です。ココナッツオイルの持つデメリット要素について解説します。
ココナッツオイルの主成分は飽和脂肪酸
脂質に含まれる脂肪酸は、大きく分けると飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられます。
さらに、不飽和脂肪酸は構造の違いによって一価不飽和脂肪酸(オメガ9系)と多価不飽和脂肪酸(オメガ6系・オメガ3系)に分けられます。
代表的な油脂の100g中脂肪酸の量を比較すると、次のようになります。
飽和脂肪酸 (g) | 一価不飽和脂肪酸 オメガ9系 (g) | 多価不飽和脂肪酸 オメガ3系 (g) | 多価不飽和脂肪酸 オメガ6 (g) |
|
---|---|---|---|---|
ココナッツオイル | 83.96 | 6.59 | 0 | 1.53 |
オリーブ油 | 13.29 | 74.04 | 0.6 | 6.64 |
なたね油 | 7.06 | 60.09 | 7.52 | 18.59 |
ごま油 | 15.04 | 37.59 | 0.31 | 40.88 |
エゴマ油 | 7.64 | 16.94 | 58.31 | 12.29 |
有塩バター | 50.45 | 17.97 | 0.28 | 1.96 |
一般的に、飽和脂肪酸は肉や乳製品などの動物性の油脂に、不飽和脂肪酸は植物油に多く含まれている傾向がありますが、ココナッツオイルは少し特殊ですね。
動物性の脂肪酸であるバターと比較しても、飽和脂肪酸の量が圧倒的に多いことがわかります。
飽和脂肪酸の特徴とは?
一般的に、飽和脂肪酸は融点が高く、常温では固体です。飽和脂肪酸の特徴として次のようなことがあげられます。
・酸化しにくい
・エネルギー源として利用されやすい
・摂りすぎると、LDLコレステロールを増やす脂肪酸が多い
飽和脂肪酸で最も注意すべき点は、摂りすぎるとLDL(悪玉)コレステロールを増やすということです。
血中にLDLコレステロールが増えすぎると血管に血栓ができやすくなり、動脈硬化が進行して脳梗塞、心筋梗塞、狭心症などの動脈硬動脈硬化性疾患を引き起こすリスクが高まります。
飽和脂肪酸は摂取基準が決められている
以前は、すべての飽和脂肪酸はLDLコレステロールを増やすと言われてきましたが、最近の研究では飽和脂肪酸にもLDLコレステロールを抑制する働きをするものがあることがわかってきました。
とは言え、多くの飽和脂肪酸がLDLコレステロールを増やすリスクが高いことに代わりはありません。生活習慣病のリスクを減らすために、厚生労働省では飽和脂肪酸の摂取基準を定めています。
2020年度版の「日本人の食事摂取基準」によると、18歳以上の男女の飽和脂肪酸の摂取目標量は1日に必要なエネルギーの7%以下。
身体活動レベルが「普通」の人の場合の飽和脂肪酸の具体的な目標量は以下のようになります。
年齢 | 男性の飽和脂肪酸 目標量(g) | 女性の飽和脂肪酸 目標量(g) |
---|---|---|
18~29歳 | 20.6 | 15.6 |
30~49歳 | 21.0 | 15.9 |
50~64歳 | 20.2 | 15.2 |
65~74歳 | 18.7 | 14.4 |
75歳以上 | 16.3 | 12.8 |
ただし、上記の目標量には肉、乳製品、卵など他の食品に含まれる飽和脂肪酸の量も含まれています。
例えば、牛乳200ccには4.6g、卵1個には1.7g、豚ロース肉100gには8gの飽和脂肪酸が含まれているので、それだけ食べると14.3gの飽和脂肪酸を摂ることになります。
ココナッツオイルを摂りすぎは危険なの?
では、ココナッツオイルは食べすぎると身体に悪いのでしょうか?
アメリカの心臓学会の論文誌が、過去の研究結果のデータを解析したところ、ココナッツオイルの摂取によりLDLコレステロールが増えたというデータが多いことが明らかになったそうです。
同時に、HDLコレステロール(余分なコレステロールを回収して肝臓に戻す役割をする善玉コレステロール)も増えていましたが、LDLコレステロールの増え方はHDLコレステロールの約2.5倍だったそうです。
つまり、ココナッツオイルは摂りすぎるとLDLコレステロールが増える油と言えそうです。ココナッツオイルの摂りすぎは、生活習慣病のリスクが高まると考えておいた方がよさそうです。
ココナッツオイルの効果がすごいというのはホントなの?
ココナッツオイルの効果をインターネットで調べてみると、ほとんどの記事に、抗菌効果、ダイエット効果、免疫強化、便秘の改善などの効果があると書かれています。
ココナッツオイルの成分である脂肪酸にはさまざまな効果がありますが、果たして、ココナッツオイルを食べてもこれらの効果は期待できるのでしょうか?それぞれについて検証してみましょう。
ココナッツオイルに抗菌効果はあるの?
ココナッツオイルに含まれるラウリン酸や中鎖脂肪酸に抗菌効果があることは、研究によって明らかになっています。
しかし、まだまだ研究途中のものが多く、得られた結果もあくまで動物実験によるもののみで、病気の治療や予防に効果があるかどうかのヒトに対する臨床試験にまでは至っていないそうです。
また、細菌の種類によっては、ラウリン酸では抗菌効果が見られたけれども、ココナッツオイルでは抗菌効果は見られなかった、という研究結果も報告されています。
ですから、現時点ではココナッツオイルを食べたからと言って、必ずしも細菌やウイルスの増殖を抑える効果があるとは言い切れないと思っておいた方がよさそうですね。
ココナッツオイルにダイエット効果はあるの?
中鎖脂肪酸にダイエット効果があることは確かです。日清オイリオによると、BMI23以上30未満の人が1日2gのMCTオイルを継続的に摂ると、体脂肪、内臓脂肪、ウエストサイズが減ったそうです。
日清オイリオのMCTオイル2gに含まれる中鎖脂肪酸は1.6g。これと同量の中鎖脂肪酸をココナッツオイルで摂ると約12gが必要です。
12gのココナッツオイルの飽和脂肪酸量は約10g。1日にこれだけの量を摂ってしまうと、それ以外の食品で摂れる飽和脂肪酸は女性の場合だと牛乳240cc分くらいしかありません。
これはあまり現実的とは言えませんね。もしも同様の効果を求めるなら、MCTオイルを摂った方が良さそうです。
免疫強化の効果はあるの?
ココナッツオイルに免疫を高める効果があるとしている記事は、その根拠として
・ココナッツオイルの主成分であるラウリン酸は母乳にも含まれている。
・ラウリン酸には抗菌効果があるので、母乳を飲んでいる赤ちゃんは病気にかかりにくい。
ということをあげています。
しかし、母乳を飲んでいる赤ちゃんが病気にかかりにくいのは、ラウリン酸の抗菌効果で病原菌やウイルスを抑えているのではなく、母乳に含まれている免疫成分によるものです。
ですから、ココナッツオイルに免疫を高める効果があるということは、信憑性に欠ける情報ということになりますね。
便秘にいいって本当?
ホルスタイン牛に、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸を混ぜた試料を食べさせたところ、善玉菌であるビフィズス菌が増えて、悪玉菌である大腸菌やウェルシュ菌が減少したという研究結果が報告されています。
このことから、中鎖脂肪酸やラウリン酸には腸内環境を整える効果が期待できることは確かのようです。
しかし、残念ながら人間にも有効かどうかはわかりません。SNSでもココナッツオイルで便秘が解消した!という体験談は特に見られませんでした。
便秘に有効な食べ物は他にもたくさんあります。脂質しかとれないココナッツオイルよりもたくさんの栄養素がいっしょに摂れる他の食品を食べる方が有効的と言えますよね。
ココナッツオイルは他の植物油よりも健康効果は高いの?
ココナッツオイルに含まれるラウリン酸や中鎖脂肪酸などには、健康のために期待できる効果がたくさんあります。
しかし、その多くはまだ研究段階であり、ココナッツオイルを食べることによってそれらの効果が得られるかどうかまでは、はっきりとわかっていません。
そして、最も注意が必要なことは、ココナッツオイルには飽和脂肪酸が他の食用油脂と比べると圧倒的に多く、ココナッツオイルを摂ることでLDLコレステロール値が上昇するという点です。
ですから、現時点ではココナッツオイルよりも、日本人に圧倒的に不足していて”健康オイル”とも呼ばれているオメガ3系の脂肪酸を摂る方が健康には有効と言えます。
オメガ3系の脂肪酸は、エゴマ油、アマニ油、青魚などに豊富に含まれています。不飽和脂肪酸なので、極端に摂りすぎない限り、健康に害を及ぼす心配もほとんどないので安心ですね。
まとめ:ココナッツオイルの効果を過信しないことが大切!
ココナッツオイルには、健康への効果が期待されているラウリン酸や中鎖脂肪酸が多く含まれている反面、摂りすぎると健康に害を及ぼすリスクの高い飽和脂肪酸がかなり多く含まれています。
ココナッツオイルは摂取量にさえ気を付ければ身体に悪い油ではありませんが、健康効果を期待して毎日摂る油としてはあまり現実的ではないと言えそうです。
それよりも、日本人に不足していて高い健康効果のあるオメガ3系脂肪酸を積極的に摂るようにする方がよいでしょう。