日本全国で味噌ほど地域差のある調味料は無いですね。「手前味噌」という言葉も、自分の家で作った味噌が一番おいしいことから使われています。
南北に長い日本では、実にさまざまな味や色の味噌が作られ、地域で愛されています。この記事では味噌の原料や味、色の違い、ご当地味噌の紹介をします。
目次
地域によって違う味噌の原材料の種類
味噌の原材料は大豆、塩、麹の3種類だけです。このたった3種類の材料から、実に千種類以上の味噌が全国で作られています。
味噌の味の違いで一番大きいのは、発酵させる麹の材料です。大豆と塩を使うのは同じですが、麹の種類によって地域の特徴が出ています。まずは味噌の地域ごとの違いを、麹の点から見ていきましょう。
米で発酵させる【米味噌】
米味噌は米に麹菌を繁殖させた米麹を使い、大豆を発酵させて作られています。
日本では伝統的に全国で米を栽培しているため多くの地域で米味噌が作られ、全体の味噌の80%以上を占めています。市販されている味噌のほとんどは米味噌と言えるでしょう。
米味噌は味にくせが少なく風味がさわやかで、どの料理にも使いやすいのが特徴です。またお米から出る甘みがあり、お味噌汁にして飲んだ時に体が芯から温まるような感じのする味噌です。
玄米を使った味噌もある
米味噌はほとんどが白米を使って作られていますが、玄米を使って作られる玄米味噌もあります。玄米麹の味噌は「昔ながらの味噌」の独特な深い乳酸菌の香りがします。
色は白米を使った味噌に比べて濃い色をしており、甘味が少なく深いコクとほのかな苦みやえぐみなどの複雑な味わいが特徴です。栄養の点でも白米の味噌に比べてビタミンやカルシウム、食物繊維が多く含まれています。
独特の深い味と風味の良さで、玄米味噌は毎日味噌汁を飲む人に根強いファンの多い種類の味噌です。
九州近辺では麦味噌
麦味噌は米の代わりに麦に麹菌を植えた「麦麹」を使って大豆を発酵させた種類の味噌です。麦を原料にしているため甘味は少なく、お味噌汁にしたときに暑い夏でものど越しが良いさっぱりした風味が特徴です。
麦味噌は麦特有の香ばしい香りが鼻に抜けて、お味噌汁にしたときに引き立ちます。また白米を使った味噌と比べて、麦の食物繊維やミネラル、カリウム、カルシウム、鉄分が豊富です。
九州地方近辺の温暖な地域で馴染まれており、「九州味噌」「薩摩味噌」などが有名です。
豆味噌は中京地方がメイン
豆味噌は「赤味噌」とも呼ばれ、米や麦を使わず豆と麹菌、塩だけで作られています。
大豆に麹菌を植え付けた「豆麹」を使い、1~3年じっくりと長期発酵させるのが特徴です。長い発酵期間のため水分が抜けた硬めの味噌で、色は赤みがかった焦げ茶色をしています。
味は深いコクと味わいがあり、甘味よりは酸味や渋み、うまみが感じられ、煮込めば煮込むほど香り高くおいしくなるのが特徴です。
愛知県を中心とする中京地域で主に作られている種類の味噌で、「八丁味噌」は全国的にも有名です。
味噌は【味】や【色】も地域によって種類が違う
北海道から沖縄まで日本全国で作られる味噌は、1つのメーカーだけでも数種類作られており、まさに千差万別で地域ごとに様々な味噌が売られています。ここからは味噌の味や色の違いを見ていきましょう。
甘口や辛口ってどう違うの?
味噌の味は大きく分けて「甘味噌」「甘口味噌」「辛口味噌」の3種類があります。この3種類の違いは、麹の含まれる量によって決まります。また塩分が多いと辛く(塩辛く)なります。
甘味噌は麹が多く塩分が少ない味噌で、関西の白味噌や東京の江戸甘味噌が代表的。麹が多いため早く発酵が進み熟成期間の短いのが特徴で、味はとろりとした甘さがあります。
甘口味噌は麹や塩の量が中くらいで、現在流通する味噌の中では最もポピュラーです。甘口味噌と言っても甘いものの他に甘じょっぱいものなど、味に幅があります。
辛口味噌は麹の量が少なく塩分量が多い味噌で、北海道味噌や信州味噌が代表的です。すっきりとした味わいが特徴です。
赤や白の味噌の違いって?
味噌には色によって「白味噌」「淡色味噌」「赤味噌」の3種類があります。この違いは熟成期間が短いほど白くなり、長いほど赤くなるのはご存じの方も多いでしょう。
もう1つ、大豆の下ごしらえの違いも味噌の色の違いに関係しています。大豆を蒸して作ると茶色く色づく「メイラード反応」が起きやすく、色が濃い味噌になります。
大豆を煮て下ごしらえをすると、煮汁の中に成分が溶けるため淡い色になり、さらに皮をむいた大豆を使うことで白く作る味噌もあります。
地域ごとに種類が違うのはなぜ?
味噌は日本中に様々な種類がありますが、地域ごとにこれほどの違いが生まれたのはなぜでしょうか。味噌は古くは飛鳥時代から日本で作られていた、歴史の古い食品です。
室町時代に庶民に味噌が普及すると、たんぱく質の貴重な補給源として保存食に使われました。
江戸時代には藩ごとに地方が分けられ、食文化や気候風土によって様々な味噌が作られるようになったのです。現在でも味噌は当時の名残で、地域によって違う味の味噌が流通しています。
地域別ご当地味噌の種類【東日本編】
栄養豊富で古くから日本人の食卓に欠かせない味噌は、1000年以上の昔から日本に住む人々の健康を支えてきました。味噌は地域によってバラエティに富んだ工夫がなされ、独自の製法で作られています。
ここからは日本各地で作られている、地域の風土や食文化に支えられた個性豊かなご当地味噌を見ていきましょう。まずは東日本編です。
【米どころ】秋田味噌
秋田県で作られる「秋田味噌」は、赤系・辛口の種類の米味噌です。
秋田は米どころとして知られ、さらに大豆も豊富に産出されたことから米麹や大豆をたっぷりと使った贅沢な味噌が作られました。分類上赤味噌になっていますが、淡色から赤色の間でいろいろな種類が存在しています。
以前は辛口が主流だった秋田味噌も、減塩傾向に伴い食塩の割合が減り甘口へと変わってきています。秋田味噌を使った代表的な料理は「きりたんぽの味噌焼き(味噌たんぽ)」「石焼き鍋」などです。
【独眼竜政宗直伝】仙台味噌
宮城県で作られる「仙台味噌」は、赤系・辛口の種類の米味噌です。伊達政宗が城内に「御塩噌蔵(ごえんそくら)」と呼ばれる味噌の工場を作り、良質の味噌を作るように命令したのが始まりです。
仙台味噌は別名「なめみそ」とも呼ばれ、大豆の比率の高いうまみの多い味噌はそのままなめても美味しく、「だしを使わなくても味噌汁が作れる」と言われるほど。
仙台味噌は減塩傾向の現在でも昔ながらの配合を重視し、独自の基準を設けて伝統の味を守っています。仙台味噌を使った郷土料理は「味噌しそ巻き」が有名です。
江戸甘味噌は江戸っ子に人気だった
東京で作られる「江戸甘味噌」は赤褐色・甘口の種類の米味噌です。
江戸時代に江戸っ子に人気を博して盛んに作られていましたが、戦後の食糧統制で製造が一時途絶えて近年再興されました。そのため東京都民でも江戸甘味噌を知らない人も多いのだとか。
江戸甘味噌は塩分が少なく米麹を多く使った贅沢な甘い味噌で、熟成期間が2週間程度と短いのが特徴です。
大豆を蒸して下ごしらえするために発酵期間が短くても赤褐色になり、こってりとした深い甘味と豊かな香りの味噌になります。江戸甘味噌を使ったご当地料理は「味噌田楽」「深川丼」などがあります。
【シェアNO1】信州味噌
長野県や北陸甲信越の地域で作られる「信州味噌」は淡色・辛口の種類の米味噌です。戦国時代に武田信玄が兵糧として味噌作りに力を入れたことで、当時の信州で味噌作りが盛んになりました。
戦後焼け野原となった関東地方に、戦争の被害をほとんど受けなかった信州から味噌を送ったことがきっかけとなり、関東から全国に信州味噌が急速に普及しました。
全国の40%以上の味噌が信州味噌と言われ、日本各地に流通しています。
味はさっぱりとしてやや酸味のある香りで、幅広い料理に使える種類の味噌です。信州味噌を使った代表的な料理は「五平餅」「やたら」などです。
【軍事用に貯蔵されていた】加賀味噌
石川県を中心とした地域で作られる「加賀味噌」は赤色・辛口の種類の米味噌です。
江戸時代に当時加賀藩を治めていた前田家で、太平の世の中でもいつ戦が起きても対処できるように、軍事食としての味噌を盛んに製造していたのが加賀味噌の起源です。
当時は軍事用の他に不作の備えとして味噌を3年間貯蔵する習慣があり、塩分が高めの長期保存のきく赤味噌を作っていました。現在は塩分も少なくなり、色も淡色の甘口のものが多くなっているようです。
加賀味噌を使った郷土料理は「めった汁」「のどぐろの加賀味噌漬け」などがあります。
地域別ご当地味噌の種類【西日本編】
味噌は大豆を麹で発酵させるというシンプルな製法ながら、全国で地域によってさまざまな種類が作られています。
起源を見ていくと江戸時代に製法が確立したものが多く、当時の地名や藩の名前がついている味噌もたくさんあります。
東日本では米味噌が主流でしたが、西日本では麹の種類もバラエティに富んでいます。では西日本の各地域で有名な味噌を見ていきましょう。
【名古屋と言えば】八丁味噌
八丁味噌は愛知県発祥の赤色辛口の豆味噌です。江戸時代に愛知県岡崎市八帖町(旧八丁村)で作られたことから「八丁味噌」の名前が付きました。
東海道を挟んだ「カクキュー」と「まるや」の2軒の味噌蔵が元祖と言われ、現在でもこの2軒の老舗で作り続けられています。
八丁味噌は大豆に麹菌を植えて「二夏二冬」、2年以上長期発酵させるため、甘味が弱く塩分濃度も低いながら独特な濃厚な味わいがあるのが特徴です。
国が決めた細かい基準を満たしたものだけが、八丁味噌と名乗ることができます。八丁味噌を使ったご当地料理は「味噌カツ」「煮込みうどん」などです。
【上品な甘み】西京味噌
京都を中心とした地域で作られている「西京味噌」は白色甘口の種類の米味噌です。江戸時代に京都御所に献上するために作られた白い甘味噌が西京味噌のルーツです。
明治に入り江戸が「東京」と呼ばれるようになったことに対応して、「西京」の名前が付いたと言われています。
塩の量が少なく米麹の量が通常の味噌の2倍以上使われており、色を白く仕上げるために大豆の皮をむくなど手間をかけて作られた味噌です。
また熟成期間は長くても3日で、他の味噌とは違う独特の香りと甘い味がします。西京味噌を使った主な料理は「西京漬け」が有名です。
【最高品種の黒豆】丹波黒豆味噌
兵庫県と京都府で作られる「丹波黒豆味噌」は、珍しい黒豆(黒大豆)を使った黒に近い褐色の種類の味噌です。味噌蔵によって味は甘口や辛口などさまざまですが、見た目よりさっぱりとした甘味とまろみが特徴です。
丹波の国は京都府の中部と兵庫県の東部にまたがっていた昔の国名で、今でも兵庫県の「丹波市」や京都府の「京丹波町」などに地名が残っています。
丹波産の黒大豆は「丹波黒」とも呼ばれ、粒が大きく形が丸いおせち料理に欠かせない高級な品種です。
丹波では昔から郷土に伝わる伝統食として黒豆味噌が作られてきました。黒豆味噌を使った料理は「ぼたん鍋」などがあります。
【阿波地方の高級味噌】御膳味噌
徳島県で作られている「御膳(おぜん)味噌」は、赤色甘口の種類の米味噌です。塩分は辛口味噌と変わらないものの、麹の割合が高いために甘味や芳醇なうまみを感じます。
お膳味噌は戦国時代に、阿波の国(当時の徳島県)の領主になった蜂須賀氏の御膳に供されたことから名付けられました。
一年中で一番雑菌の繁殖が少ない大寒に味噌の仕込みを行う伝統があり、300日ほどの熟成期間を経て作られています。御膳味噌を使ったご当地料理は「阿波の味噌焼き」などです。
【素朴なおいしさ】瀬戸内麦味噌
愛媛、山口、広島県の瀬戸内海沿岸地域で作られている「瀬戸内麦味噌」は、淡色甘口の種類の麦味噌です。麦特有の香ばしい香りと麹を多く使った甘味のある味わいが特徴です。
温暖な瀬戸内地域では米栽培の裏作として麦を栽培していました。そのため麦を使った味噌が伝統的に作られていたと言います。瀬戸内地域は米味噌と麦味噌の分かれ目のため、米味噌も作られています。
瀬戸内麦味噌を使った主な料理は「牡蠣の土手鍋」などです。
【さっぱりとした甘さ】薩摩味噌
九州の地域、特に鹿児島県で作られる「薩摩味噌」は淡色~赤色の種類の甘口麦味噌です。九州地方では醤油も甘口が好まれ、味噌も麹の割合が多く発酵期間が1~2か月と短めなのが特徴です。
薩摩味噌は麦の香りが高く、麦粒が残っています。13代将軍徳川家定の正室となった篤姫は、生涯鹿児島に帰ることはありませんでした。篤姫は故郷を懐かしみ、薩摩味噌を取り寄せて食べていたと言われています。
薩摩味噌を使った郷土料理は「さつま汁」「豚味噌」が有名です。
地域によって独自の種類が作られる味噌を楽しもう
米や麦、豆味噌など、味噌ほど地域によって見た目や味の種類が違う調味料は珍しいかもしれません。
スーパーには選ぶのに迷うほどの多様な種類の味噌が並び、インターネットの普及で今ではどんな地域の味噌でも手に入れられるようになりました。
普段使うことのない種類の味噌も、食べてみたら意外に口に合うかもしれません。日本伝統の健康食味噌の様々な味を楽しんでみてくださいね。