先日、パウンドケーキのレシピを検索していて、ふと沸いた疑問がこれでした。
実は私も今まで、パウンドケーキにベーキングパウダーを使うのは当たり前だと思っていたのです。
しかし、「ベーキングパウダーなし」や「ベーキングパウダー不使用」と書かれていなくても、ベーキングパウダーを使っていないレシピが結構あるのですよね。
そこで、パウンドケーキにベーキングパウダーは必要なのかどうか、そして、ベーキングパウダーなしでも失敗しない方法はあるのかどうか、この2点について探ってみました。
目次
パウンドケーキにベーキングパウダーは必要なし?
パウンドケーキはベーキングパウダーなしでも焼けるのか?という答えを見つけるために、まずは、パウンドケーキの由来や本場のレシピについて調べてみました。
パウンドケーキの材料は?
パウンドケーキは英語で書くと、『pound cake』。poundとは、現在でもアメリカやイギリスなどで日常的に使われている重さの単位です。日本語ではポンドと言いますね。
パウンドケーキはイギリスが発祥。バターと小麦粉と砂糖と卵を1ポンドずつ使って焼いたことからその名が付いたそうです。
また、フランスではパウンドケーキのことを『gâteau quatre-quarts(ガトー・カトル・カール)』と言います。直訳すると、4分の4のケーキ。つまり、4つの材料を1/4ずつ使って作ったケーキという意味合いがあります。
イギリスのパウンドケーキ、フランスのカトルカール。レシピを調べてみると、どちらも基本的にはベーキングパウダーなしで作るようです。
パウンドケーキとベーキングパウダーの歴史
パウンドケーキは18世紀の初めにイギリスで誕生したと言われています。また、パウンドケーキのレシピが紹介されたのは1747年。イギリスの料理作家ハナー・グラスが、著書『The Art of Cookery made Plain and Easy』の中で紹介したのが最初のようです。
一方、ベーキングパウダーがイギリスで発明されたのは1843年。1850年代にアメリカで工業化され、一般家庭向きのベーキングパウダーが発売されたのは、19世紀の終わり頃だそうです。
つまり、イギリスで初めてパウンドケーキのレシピが紹介されたのは、ベーキングパウダーが発明される100年ほど前ということになります。ということは、最初のレシピではベーキングパウダーなしのパウンドケーキが紹介されたことになりますね。
イギリス王室の公式レシピでは?
イギリスで定番の伝統的なケーキのひとつに「ヴィクトリア・スポンジケーキ(別名:ヴィクトリア・サンドイッチ)」というものがあります。
ヴィクトリア・スポンジケーキは、パウンドケーキの生地の間にバタークリームとジャムを挟んだケーキ。ヴィクトリア女王がこよなく愛したことからその名が付いたと言います。
2020年5月にヴィクトリア・スポンジケーキのレシピが、バッキンガム宮殿のペストリーシェフによってイギリス王室の公式インスタグラムで紹介されました。
このレシピによると、ケーキの材料は卵3個、グラニュー糖150g、無塩バター150g、小麦粉150g、バニラエッセンス。つまり、イギリス王室で作られている伝統的なパウンドケーキも、ベーキングパウダーなしで作っているということになりますね。
結論!ベーキングパウダーは必要?
イギリスのパウンドケーキとフランスのカトルカールの一般的なレシピ、パウンドケーキとベーキングパウダーの歴史的な背景、そして、イギリス王室の伝統的なケーキのレシピ。
これら3つの要素から考えると、パウンドケーキはベーキングパウダーなしで作るケーキと言えます。
ということは、パウンドケーキにベーキングパウダーを入れるのは、ケーキを膨らますための補助的な要素。つまり、パウンドケーキはバターや卵に空気を含ませることで膨らますケーキですが、失敗なく膨らむように(もっと言えば、ちょっと失敗しても膨らむように)、ベーキングパウダーを入れると考えてよさそうです。
ベーキングパウダーなしのパウンドケーキ、失敗しない方法は?
パウンドケーキにベーキングパウダーが入っているのは、あくまで補助的な役割であって絶対に必要なわけではない、ということがわかりました。
ここからは、どのようにすればベーキングパウダーなしでも失敗なくバウンドケーキを作れるか、について探ってみましょう。
パウンドケーキにはさまざまな作り方が存在しますが、主な作り方として次の4種類の方法があります。
シュガーバッター共立て法
柔らかくしたバターと砂糖を攪拌し、そこに全卵を少しずつ混ぜ、最後に小麦粉を加えて混ぜ合わせる方法です。
バターには、柔らかくして攪拌すると内部に気泡を取り込む「クリーミング性」という性質があります。バターに砂糖を加えるとさらにクリーミング性が高まります。
この性質を利用したのがシュガーバッター法。バターと砂糖をクリーム状にした後に全卵を加える方法が共立て法で、キメはやや粗いですが、しっとりと柔らかく仕上がるのが特徴です。
この方法は、パウンドケーキのレシピでよく紹介されていて、最も一般的な作り方と言えるでしょう。しかし、バターに全卵を混ぜると分離しやすいため、慣れないうちは失敗しやすい方法でもあります。
シュガーバッター別立て法
まず、バターと砂糖の半量を攪拌した後に卵黄を加えます。そこに卵白と残りの砂糖とで作ったメレンゲと薄力粉を数回に分けて入れ、混ぜ合わせる方法です。
シュガーバッター別立て法では、バターのクリーミング性と卵の起泡性の両方の性質を利用してケーキを膨らませます。そのため、生地のキメが細かくホロリと軽い食感のパウンドケーキに仕上がるのが特徴です。
しかし、共立て法よりも工程が多いので手間がかかる上、卵白や小麦粉を混ぜ合わせるのにコツが必要なので、どちらかと言うと上級者向きの方法と言えるでしょう。
ジェノワーズ法
ジェノワーズとはスポンジケーキのこと。まずは全卵と砂糖を泡立てて、そこに溶かしたバター、小麦粉の順に混ぜ合わせていく方法です。スポンジケーキの共立てと同じ工程で作るのでジェノワーズ法と言います。
バターのクリーミング性ではなく、卵の起泡性を利用してパウンドケーキを膨らませるので、キメが細かくしっとりと軽い食感に仕上がります。
ただし、スポンジケーキよりも溶かしバターと小麦粉の量が多いため、生地を均一に混ぜにくいのが難点。混ぜ方が足りなくてバターや小麦粉が混ざり切らなかったり、逆に混ぜすぎて膨らまなくなったりする可能性があります。
難易度としては、スポンジケーキよりも上と言えるでしょう。
フラワーバッター法
シュガーバッター法がバターと砂糖を先に混ぜ合わせるのに対し、フラワーバッター法はバターと小麦粉を先に混ぜ合わせ、そこに全卵と砂糖を混ぜ合わせる方法です。
フラワーバッター法でパウンドケーキを作ると、キメが細かくしっかりとした食感になります。
シュガーバッター法とのいちばんの違いは、バターに小麦粉を先に混ぜると小麦粉が卵の水分を吸収するため、卵を混ぜてもバターと分離しにくくなることです。
また、小麦粉は混ぜすぎるとグルテンを形成してケーキが固くなりますが、油脂にはグルテンの形成を抑える性質があるため、パウンドケーキが固くなるのも防いでくれます。そのため、ベーキングパウダーなしでも失敗しにくい方法と言えるでしょう。
初心者でも失敗しにくい方法はコレ!
パウンドケーキの主な作り方を4種類ご紹介しましたが、ベーキングパウダーなしでパウンドケーキを作るのにおすすめの方法はフラワーバッター法です。
パウンドケーキをふわりと膨らませることを重視すると、シュガーバッター法やジェノワーズ法の方が向いています。しかし、難易度が高めなので、ベーキングパウダーなしで失敗なく作るのは少し難しいですね。
フラワーバッター法はキメこそ細かいですが、どちらかと言えば、ふんわり柔らかいというようよりはしっかりと食べ応えのある食感。
しかし、ベーキングパウダーなしで作るとなるといちばん失敗が少ないので、初心者にもおすすめの方法と言えるでしょう。
ベーキングパウダーなしで作るパウンドケーキのおすすめレシピ
次に、ベーキングパウダーなしでも失敗しにくい、フラワーバッター法で作るパウンドケーキのレシピをご紹介します。
フラワーバッター法で作るパウンドケーキの基本レシピ
まずは、フラワーバッター法で作るパウンドケーキの基本のレシピです。フラワーバッター法の基本の作り方をマスターすると、いろいろな種類のパウンドケーキのアレンジも簡単にできるようになるので、ポイントをしっかりと押さえておきましょう。
【材料】(18cm×9cm×6cmのパウンドケーキ型1個分)
卵(Lサイズ) 2個(120g)
バター 120g
砂糖 120g
薄力粉 120g
★事前準備★
・パウンドケーキ型に油を塗り、底と側面にカットしたクッキングシートを敷いておく。
・バターは室温に戻し、指で軽く押すと凹むくらいの固さにしておく。
・他の材料もすべて室温に戻し、小麦粉は振るっておく。
・オーブンは170℃で予熱をかけておく。
【作り方】
1.ボールにバターを入れ、ヘラでクリーム状になるまでよく混ぜる。
2.小麦粉を全量入れて、ヘラで混ぜてバターとなじませる。
3.ホイッパーかハンドミキサーで、バターが空気を含んで白っぽくなるまでしっかりと攪拌する。
4.別のボールに全卵と砂糖を入れて50℃くらいの湯煎にかけ、砂糖が完全に溶けるまで混ぜる。
5.4の卵を4回に分けて3のバターに加えていく。入れる度に空気を含ませるようにしっかりと攪拌する。
6.でき上った生地を型に入れ、ヘラで表面を平らにならす。その後、5cmくらいの高さから型を数回落として、余分な気泡を抜く。
7.170℃のオーブンで30分~40分程度焼き、竹串を刺して生焼けの生地が付いてこないようならば焼き上がり。
8.型を外し、ケーキクーラーの上などで冷ます。
【ポイント】
・ベーキングパウダーなしで作るので、ケーキを膨らませるにはバターにしっかりと空気を含ませることが重要です。できればハンドミキサーを使い、バターが白っぽいクリーム状になるまでしっかりと空気を含ませましょう。
・砂糖を溶かした卵を加える時も同様です。卵を少しずつ加えて、その都度しっかりと攪拌して空気を含ませるようにしてください。
・バター、砂糖、薄力粉、卵は基本的に同量です。Mサイズの卵は約50g、Lサイズの卵は約60gなので、卵の量に合わせて他の材料を加減するとよいでしょう。もちろん、甘さ控えめにしたい場合は砂糖の量を少し減らしても問題ありません。
・上部がパックリと割れたパウンドケーキを作りたい場合は、オーブンに入れて10分くらいして表面が乾いてきたら、縦に切り込みを入れましょう。その場合、オーブンの温度が下がらないように注意してください。
ちょっぴり大人の味!紅茶バウンドケーキ
ティーバックの茶葉を使用して、紅茶入りのパウンドケーキを作ってみましょう。
紅茶の種類はダージリンでもアールグレイでも何でもOK。好きな茶葉のティーバックを2~3袋用意してください。ティーバック1袋の茶葉の量は約2gです。入れる量は5gを目安にお好みで加減してくださいね。
他の材料や作り方は、基本レシピと同じです。「5」で卵を全部混ぜ終わり型に流す前の状態の生地に、ティーバックから出した紅茶の茶葉を入れてヘラで混ぜてください。
混ぜる時は練らないように注意して、「の」の字を書くようにできるだけ少ない回数で混ぜるようにしましょう。その後は型に入れ、基本のレシピと同じように170℃のオーブンで30分~40分ほど焼きます。
断面がおしゃれ!抹茶マーブルパウンドケーキ
ケーキを切った時に断面がマーブル状になっている抹茶パウンドケーキ。見た目がキレイなだけでなく、プレーン味と抹茶味の生地が混ざって、味にもアクセントが付きます。
【材料】(18cm×9cm×6cmのパウンドケーキ型1個分)
卵(Lサイズ) 2個(120g)
バター 120g
砂糖 120g
薄力粉 120g
抹茶 7~10g
牛乳 大さじ2
【作り方】
※事前準備および作り方の1~5までは、「基本レシピ」と同じ手順です。
6.抹茶に牛乳を少しずつ加えてよく混ぜておく。
7.5で卵を混ぜ終えた生地の半量を別のボールに取り、6を入れて混ぜ、抹茶味の生地を作る。
8.型にスプーンでプレーンの生地と抹茶味の生地を交互に入れ、全部を入れ終わったらスプーンで軽く混ぜてマーブル状にする。
9.170度のオーブンで30分~40分程度焼き、型から外して冷ます。
【ポイント】
・抹茶の生地を作る時は、生地を練ってしまわないように注意してください。ヘラで「の」の字を書くように混ぜるようにしましょう。
・型に2色の生地を入れてからスプーンでマーブル状にする時は、あまり混ぜすぎないようにしましょう。軽く混ぜる程度の方が断面はキレイになります。
・抹茶をココアパウダーに変えると、チョコマーブルケーキが作れます。ぜひ、試してみてください。
しっとりもちもち!米粉のパウンドケーキ
薄力粉のかわりに米粉を使用して作るもちもちでしっとりしたパウンドケーキです。ベーキングパウダーなしの米粉のパウンドケーキもフラワーバッターなら簡単に作れます。
【材料】(18cm×9cm×6cmのパウンドケーキ型1個分)
卵(Lサイズ) 2個(120g)
バター 110g
砂糖 110g
米粉 110g
★事前準備★
・パウンドケーキ型に油を塗り、底と側面にクッキングシートを敷いておく。
・バターは室温に戻し、指で押すと凹むくらいの固さにする。他の材料もすべて室温に戻しておく。
【作り方】
※作り方の1~5は基本レシピと同じです。基本レシピの薄力粉を米粉に置き換えて同じ手順で作ってください。
6.型に入れ終わったら、米粉に吸水させるために室温で20~30分寝かせておく。頃合いを見てオーブンを170℃に予熱しておく。
7.170℃のオーブンで30~40分ほど焼き、型から外して冷ます。
【ポイント】
・米粉は小麦粉よりも吸水率がよいため、水分源の卵を基本のレシピよりも約1割多くするのがポイントです。
・卵の量を増やさずに、卵の量の1割程度の牛乳を加えてもOKです。
まとめ:ベーキングパウダーなしでパウンドケーキを作ってみよう!
イギリスのパウンドケーキもフランスのカトルカールも、本来ならベーキングパウダーなしで作ります。パウンドケーキはバターのクリーミング性と卵の起泡性を利用して生地を膨らませますが、うまく作るには多少の技術が必要です。
しかし、この記事で紹介したフラワーバッター法は、比較的簡単で失敗しにくいのがメリット。ハンドミキサーを使ってバターと卵にしっかりと空気を含ませるとキメが細かくホロリとした食感になるので、ぜひ挑戦してみてくださいね。