菜種油(なたね油)という名前を聞いたことはあっても、実際はどのような油なのかよく知らない人も多いのではないでしょうか。
なたね油とはいったいどのような植物油なのでしょうか?また、健康にとって良い油なのか、それとも、良くない油なのかどちらでしょうか?
この記事では、菜種油がどのような油なのか、そして、健康にどのような影響を及ぼすのかについて解説します。
目次
菜種油ってどういう油?日本人の健康と関わりがあるの?
スーパーで「なたね油」として売っている商品はあまり見かけませんよね。
しかし、油の原材料表示を見てみると、「なたね油」と書かれている商品はたくさんあります。なたね油とはいったいどのような油なのでしょうか?
菜種油ってどういう油なの?原料や特徴は?
菜種油(なたね油)は菜種(アブラナ)から搾った油で、農林水産規格(JAS)では以下のように定義されています。
食用なたね油:あぶらな又はからしなの種子から採取した油であって、食用に適するよう処理したものをいう。
農林水産省 『食用植物油脂の日本農林規格』より
実際には、国内で流通しているなたね油は、セイヨウアブラナという植物の種子から搾った油を精製したものです。
菜種油の原料「セイヨウアブラナ」とは?
セイヨウアブラナという植物は、私たちにとってもおなじみの植物で、セイヨウアブラナの花は春先になると畑や野原一面に黄色の花を咲かせる、あの「菜の花」です。
日本では、弥生時代から食用としてアブラナの茎や葉などを食べていたそうですが、江戸時代に主に灯油(ともしあぶら=あかり用の油)として搾油用に栽培されるようになりました。
その頃から、天ぷらに使う安価な油として食用もされていたそうです。
明治時代になるとなたね油の原料は日本古来のアブラナではなく、外来種のセイヨウアブラナが栽培されるようになりました。
そして、現在では、なたね油を搾るためのセイヨウアブラナの種子は、ほとんどをカナダとオーストラリアから輸入しています。
菜種油は日本でいちばん使われている油
USDA(アメリカ農務省)の統計によると、2021/22年の世界の植物用の生産量は以下のようになっています。
菜種油の生産量は約1割程度で、それほど大きな割合ではないことがわかります。では、日本ではどうでしょうか?
農林水産省の「我が国と世界の油脂をめぐる動向」によると、2021年の日本の油脂供給量は以下のようになっています。
これを見ると、日本で使われている油脂の約4割が菜種油で、世界の中でも菜種油を多く消費している国であることがわかりますよね。
日本では菜種油は食用のみに利用されているので、菜種油は日本で最も食べられている油ということになります。ですから、私たちの健康にも大きく関わっている油ということになりますよね。
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「菜種油」・「キャノーラ油」・「サラダ油」って何が違うの?
一般的な食品スーパーには、菜種油(なたね油)という名前の付いた油は売っておらず、食用なたね油を原料とした油として、「キャノーラ油」や「サラダ油」などが販売されています。
一方、食品専門店やインターネット通販では、「菜種油(なたね油)」や「純正菜種サラダ油」という油も販売されています。
消費者が混乱しそうな非常にややこしい名前が付けられていますが、これらの違いはどこにあるのでしょうか?
厳密に言うと、商品名として使われている「菜種(なたね油)」と「キャノーラ油」と「サラダ油」には、法律で決められた規格(決まり)があるわけではありません。
つまり、メーカーが自由に商品名を付けてよいことになっています。
「サラダ油」と菜種油はどう違うの?
「サラダ油」という名前を商品名に入れるには、JASで定められた規格により高純度のなたね油を使用していなければなりません。
かと言って、純度が高いなたね油に必ず「サラダ油」と付いてないといけない決まりがあるわけでもありません。
つまり、純度が高いなたね油を使っていても、「サラダ油」と付いていない商品もたくさんあるということになります。
また、単純に「サラダ油」という商品名の油は、一般的に大豆油となたね油をブレンドした油です。
また、「純菜種サラダ油」など、「菜種(なたね)」という文字が入っていれば、ブレンドではなく菜種油だけの油であることが多いようです。
「キャノーラ油」と菜種油は同じ?違う?
「キャノーラ油」として販売されている油は、キャノーラ種という菜種から搾った油です。
キャノーラ種とは、1970年代に身体によくないとされていた「エルカ酸(エルシン酸)」という成分がほとんど含まれないように改良された品種です。
従来の菜種油と区別するためにキャノーラ油という名前が付けられています。つまり、キャノーラ油もなたね油の一種ということになります。
ただし、市販のほとんどの菜種油は、カナダやオーストラリアから輸入した菜種を原料としていて、輸入されている菜種はキャノーラ種のみです。
つまり、商品名に「キャノーラ油」と入っていなくても、国産の菜種から搾ったなたね油以外はすべてキャノーラ油ということになりますよね。
菜種油か混合油かどうかの見分け方は?
菜種油の商品名はJASでの決まりが特になくメーカーごとに商品名の付け方が変わるので、商品名だけで純粋な菜種油なのか、それとも他の植物油がブレンドされているかどうかを見分けることはなかなか難しいと言えます。
よくわからない場合は、パッケージの裏面などに書かれている表示を見てみましょう。
「名称」の部分に、「食用なたね油」と書かれている商品は菜種油、「食用調合油」と書かれている商品は菜種油と他の植物油がブレンドしてある商品です。
また、原材料表示には、使っている割合の多い順から書く決まりがあるため、「食用なたね油」が最初に書かれていれば菜種油の割合が多く、「食用大豆油、食用なたね油」と書かれていれば、菜種油よりも大豆油の方が多く入っていることがわかります。
菜種油は健康に良い油なの?菜種油の健康効果とは?
油はカロリーが高いので、ダイエットの大敵!身体に良くない!などとあまり良い印象がないかもしれません。
しかし、脂質は生命活動に必要なエネルギー源となるほか、細胞膜などを作る材料などにも使われるため、私たちの身体になくてはならない栄養素です。では、菜種油は身体に良い油なのでしょうか?
食用の油脂は成分によって性質が変わる!
少し化学的な話になりますが、油脂は、グリセリン(アルコールの一種)という成分にいくつかの脂肪酸がくっついてできています。
脂肪酸にはたくさんの種類があり、くっついている脂肪酸の種類によって油脂の性質が大きく変わってきます。
脂肪酸は大きく分けると飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の2種類に分類され、肉の脂やココナッツオイルのように常温で個体の油脂には飽和脂肪酸が多く、植物油や魚油のように常温で液体の油脂には不飽和脂肪酸が多く含まれています。
植物油に多く含まれる脂肪酸は、さらにオメガ3(n-3)系脂肪酸、オメガ6(n-6)系脂肪酸、オメガ9(n-9)系脂肪酸の3つに分けられ、このうち、オメガ3系とオメガ6系の脂肪酸は体内でほとんど合成されないために、食事から摂る必要のある「必須脂肪酸」と呼ばれています。
菜種油はオメガ9の油
下に示した図は、主な植物油に含まれている脂肪酸の割合を示しています。
菜種油(キャノーラ油)は、含まれている脂肪酸のなかでもオメガ9の「オレイン酸」が最も多いため、「オメガ9の油」に分類されます。
同じオメガ9の植物油にはオリーブオイルがあります。オリーブオイルはオレイン酸の量が他の脂肪酸よりも圧倒的に多く、オメガ3やオメガ6の脂肪酸はあまり含まれていません。
これに対し菜種油は、オメガ3やオメガ6の脂肪酸がオリーブオイルよりも多く含まれていることが特徴です。そのため、菜種油は不飽和脂肪酸のバランスがオリーブオイルよりも良いと言われています。
菜種油に期待できる健康効果を解説
なたね油には、オメガ9系脂肪酸であるオレイン酸が約65%含まれています。オレイン酸には主に以下の2つの効果があるとされています。
コレステロールをコントロールして動脈硬化を防ぐ
コレステロールは細胞膜やホルモンなどの材料となる物質で、肝臓で作られたコレステロールを全身に運ぶLDLコレステロールと、余ったコレステロールを肝臓に戻すHLDコレステロールとがあります。
LDLコレステロールは増えると血管に蓄積して動脈硬化の原因となるため「悪玉コレステロール」と呼ばれ、HDLコレステロールは血管に蓄積したLDLコレステロールを回収して肝臓に戻すので「善玉コレステロール」と呼ばれています。
LDLコレステロールとHDLコレステロールのバランスが保たれている状態が理想ですが、糖分や脂質の摂りすぎなどにより血液中にLDLコレステロールが増えすぎると動脈硬化のリスクが高まります。
オレイン酸には、LDLコレステロールを増やさずにHDLコレステロールも減らさず、動脈硬化を予防する効果が期待できます。
抗酸化作用で生活習慣病などを予防!
加齢や生活習慣などが原因で体内に活性酸素が増えると、活性酸素によって体内の脂質が酸化されます。
酸化されてできた過酸化脂質は、体内の老化、動脈硬化、ガン、心血管疾患、生活習慣病など身体にさまざまな悪影響を及ぼします。
なたね油の主成分であるオレイン酸には抗酸化作用があり、なたね油には抗酸化作用を持つビタミンEがオリーブ油の2倍以上含まれています。
なたね油の持つこれらの抗酸化作用には、体内の脂質が酸化されるのを防いで老化や生活習慣病などを予防する効果が期待できます。
菜種油が危険って本当?!健康を損なう可能性はないの?
菜種油には動脈硬化などを予防できる効果が期待できる一方で、身体に悪い成分が入っているという話や、摂りすぎは健康に良くない影響を与えるという話を聞くことがありますが、これは本当なのでしょうか?
アメリカで食用が禁止されていたって本当?危険はないの?
菜種油のことを調べていると、「菜種油 アメリカ 禁止」というワードが出てきます。
これは、1970年代にラットによる実験で、当時の菜種油の主成分だったエルカ酸(エルシン酸)という成分が心臓に悪影響を与えるという論文が相次いで発表されたことを受けて、アメリカで菜種油の食用が禁止された経緯があることを示しています。
アメリカの食用禁止を受けて、菜種の主要生産国であるカナダはエルカ酸をほとんど含まない「キャノーラ種」の菜種を開発します。
そして、1985年にアメリカ食品医薬局(FDA)がキャノーラ油をGRAS(一般的に安全とされる食品)に登録し、菜種の食用禁止を解除しました。
現在では、日本を含む多くの国で低エルカ酸もしくは無エルカ酸の菜種油が標準となっています。
エルカ酸が本当に危険なのかは謎のまま
その後の数々の研究により、エルカ酸により心臓の壊死が見られたのはオスのラットに限られていて、他の動物では見られないということもわかってきました。
その一方で、他の動物でもエルカ酸の長期摂取により心臓に脂肪が蓄積することは否定できないともされています。
しかし、その後、欧米をはじめ世界の大半の国がエルカ酸を含む菜種油は使用しなくなったため、ヒトに対してどのような影響があるのかという研究も次第に行われなくなり、未だにその真相はよくわかっていません。
菜種油にトランス脂肪酸は含まれている?
トランス脂肪酸は、主に油脂の脱臭や加工の工程において発生する脂肪酸のことです。
大量に摂取すると動脈硬化の原因になることがわかっていて、WHOでは、トランス脂肪酸の1日の摂取量を総エネルギー摂取量の1%よりも少なくするように注意を促しています。
それを受け、油脂の摂取量の多い欧米ではトランス脂肪酸の摂取が制限されています。
日本では、脂質の摂取量が欧米よりも少ないことなどから、脂質の1日の摂取目標量を示しているだけで、トランス脂肪酸については特に制限を設けていませんが、各食品メーカーはトランス脂肪酸を減らす努力をしています。
商品名 | 大さじ1杯あたり の含有量(g) |
---|---|
日清サラダ油 | 0.17 |
日清キャノーラ油 | 0.11 |
日清こめ油 | 0.04 |
日清アマニ油 | 0.04 |
日清ヘルシーごま香油 | 0.08 |
ボスコ エキストラバージン オリーブオイル | 0.01未満 |
明治コーンソフト(マーガリン) | 0.12 |
上の表は、植物油商品に含まれるトランス脂肪酸の量です。厚生労働省によると、日本人の1日の平均摂取エネルギー量は約1900Kcalなので、WHOが勧告しているトランス脂肪酸の1日の摂取量は約1.9g。
ですから、平均的な日本人の食生活では、菜種油に含まれるトランス脂肪酸の摂取量による健康への影響は小さいということが国の見解です。
菜種油を摂りすぎると身体に悪いの?
菜種油に多く含まれるオレイン酸の過剰摂取が、身体にどのような影響を及ぼすのかについては、あまり明らかにされていません。
しかし、なたね油も過剰摂取すると、他の油脂と同じように動脈硬化や生活習慣病を引き起こす可能性は否定できないという考えが一般的のようです。
「日本人の食維持摂取基準(2020年版)」でも、飽和脂肪酸、オメガ3、オメガ6の油の目安量は示されていますが、オメガ9の目安量は定められていません。
これは、オメガ9が生活習慣病の予防にどの程度有効で、どの程度リスクがあるかについて、まだ明らかになっていないためです。
健康のためになる菜種油の上手な摂り方は?
菜種油は適度に摂ると動脈硬化や生活習慣病などを予防できる効果が期待できる一方で、摂りすぎると健康に影響を及ぼす可能性もあります。
では、健康を維持するためには、菜種油をどのように摂るとよいのでしょうか。
1日の摂取量はどのくらい?
厚生労働省の令和元年の調査によると、20歳以上の男性で35.0%、女性で44.4%の人が、「日本人の食維持摂取基準(2020年版)」の脂質の1日の摂取目標量を超えていたそうです。
脂質の摂取は年々増加傾向にあります。
オメガ9の菜種油には1日の目安摂取量は定められていませんが、摂りすぎは禁物です。
植物油の他に、肉、乳製品、卵、他の加工食品などにも脂質はたくさん含まれていることを考慮して、適度な量を摂るようにしましょう。
普段使いの植物油としてサラダ油よりもおすすめ!
菜種油の利点は、高温で加熱しても酸化しにくいことと安価であること。また、クセが少ないため、炒め油や揚げ油など普段使いの植物油として使いやすい油であると言えます。
同じような油に、大豆油になたね油をブレンドした「サラダ油」があります。大豆油はオメガ6系のリノール酸が主成分のため、なたね油単体の植物油よりもオメガ6が多いことが特徴です。
オメガ6にもLDLコレステロールを減らしますが、摂りすぎると動脈硬化のリスクを高めることがわかっていて、日本人はオメガ6を摂りすぎている傾向があります。
ですから、サラダ油よりもキャノーラ油などの菜種油を使う方がオメガ6の摂りすぎを防げるため健康には良いと言えます。
オメガ3の油も積極的に摂ることが大切!
菜種油やオリーブオイルなどのオメガ9の油や、大豆油やごま油などのオメガ6の油は、適度に摂ると動脈硬化や生活習慣病などの予防効果が期待できますが、それよりも積極的に摂りたい油がオメガ3です。
オメガ3には動脈硬化のリスクを減らす効果がある他、血液をサラサラにするLDLコレステロールを減らす、血圧を下げる、脂肪を燃焼させるなど多くの健康効果が期待されています。
菜種油には、オリーブオイルよりもオメガ3脂肪酸が多く含まれていますが、それだけでは、オメガ3の1日の摂取目安にはまだまだ足りません。
オメガ3脂肪酸は、青魚、えごま油、アマニ油に多く含まれています。健康のためにはこれらを積極的に摂るようにしましょう。
まとめ:菜種油は適度に摂ると健康に良いが、摂りすぎには注意!
菜種油は、スーパーなどでは「キャノーラ油」として売られている植物油のこと。
クセがなくあっさりとした味わいで高温で酸化しにくく、しかも安価であるために、炒め物や揚げ物などに使用する普段使いの植物油としてとても重宝します。
菜種油の主成分は、オレイン酸というオメガ9系脂肪酸です。オレイン酸は適度に摂ると、動脈硬化や生活習慣病の原因となるLDLコレステロールを増やさない効果があり、健康に良いことがわかっています。
しかし、摂りすぎると他の油脂と同様にカロリーオーバーになったり、動脈硬化や生活習慣病のリスクを逆に高めてしまう可能性もあると言われています。
菜種油の摂りすぎには注意をして健康を維持するようにしたいですね。