つーんと鼻に抜ける辛さと、さわやかな香りのするわさび。海外でも「wasabi」と言えば通じるほど定着しており、近年人気が高まっている食材です。
ほかの農産物に比べて情報の少ないわさびは、その反面年々需要の高まっている日本の重要な作物です。この記事ではわさび農家の情報や、どうやったらわさび農家になれるかを解説します。
目次
わさび農家の情報について
世界的な日本食のブームで、ワサビの需要も伸びています。海外でも粉ワサビや練りわさびではなく、本物の生わさびを要望する人も増えており年々生わさびの価格は上昇する一方です。
その一方で高齢化や後継者不足、近年の地球温暖化の影響により日本のわさび生産量は次第に減少しているのが現状です。
ではわさび農家の現状と、新規就農の方法や情報について見ていきましょう。
わさび農家の年収は?儲かるの?
「長野県農業経営指標(平成29年)」によると、水わさびの場合1年間で経営費を引いた農業所得は10aあたり約125万円でした。
茨木健林業技術センター提供の「林内ワサビ栽培の収益試算」によると、畑わさび(陸わさび)の場合2年間で経営費を引いた農業所得は10aあたり約15万円だったとの報告があります。
畑わさびとは主に葉や茎を加工用にするものです。畑わさびの収入は少ないように思いますが、水わさびと比べて以下のような利点があります。
・水辺に限らず広い範囲に作付けできる。
・わさび田などの特別な栽培場所を作成する手間や設備投資がかからない。
・栽培の際の管理が水わさびに比べ少なくて済む。
農業1戸当たりの耕地面積は、平成27年の全国平均で2.2haとの統計があります。それに当てはめると畑わさびでも、1年で約165万円の所得が見込まれるでしょう。
わさび農家の求人はあるのか
ネットで「わさび 求人」を検索してみると、いくつかの求人があることがわかります。わさびの栽培スタッフの募集などもありますので、どんな仕事か試しにやってみたい人は応募するといいかもしれません。
求人などをしているわさび栽培の仕事は、大規模な農家の作業スタッフであることがほとんどです。
後々の経験としてやってみることはいいですが、経営者として自分の農場を持ちたいと考えているなら別な方法でのアプローチをおすすめします。
後継者の募集ってあるの?
わさびの産地では後継者不足に悩んでいるため、後継者の募集は行われています。県などが間に入って土地の取得などの相談に乗ってくれるところもあります。
ただし行政などが積極的でない地方では、残念ながら後継者の募集はあまりありません。
これにはいくつかの原因があります。一つは新規就農者の定着率の低さで、10組のうち1~2組しか定着しないと言われています。もう一つはわさび農家が新規就農者を受け入れるのに消極的なことがあげられます。
まったくの他人に自分がこれまで大事にしてきた土地や仕事を任せるのですから、ためらう気持ちも理解できます。結局誰にも引き継がれずに管理しなくなって、放置されたわさび田が増えている地域もあるようです。
一般人がわさび農家になるには
今まで全く農業経験のない人がわさび農家になるには、移住したい土地などで研修を受ける必要があります。中には後継者を募集しているわさび農家もありますので、これに応募するのも一つの方法です。
もちろん自分で必要なお金を貯めて自分で土地を購入し、誰の助けも借りずに一人でわさび農家になることも可能です。ただしこの場合はわさびを販売して食べていくようになるまでに、相当な時間と労力がかかるでしょう。
ここからは今まで農業経験のない一般人がわさび農家になるには、どうしたらいいか詳しく見ていきましょう。
周りの人が応援してくれるか確認しておこう
農家になるのに周りの人の応援なんて、関係ないと思う人も多いかもしれません。けれどわさび農家に新規就農するには、実はこの「人」が一番大切なポイントです。
ネットなどで新規就農の募集要項を見ると、「夫婦や友達の2人以上」での募集が多いことに気づきます。農業は天候や病害虫、動物の食害などで作物が被害を受けることも多い仕事です。
辛いことがあった時に1人では耐えられなくても、家族や友人がいれば助け合うことができます。また農作業も1人より2人以上の人手があったほうが断然有利です。
家族のいる人は協力してもらえるかどうかを、まず始めにきちんと確認しておきましょう。
自己資金をためよう
新たに就農する時には、利益を得られるまでの生活費と土地や機材を購入するための資金が必要です。わさび農家を始める前に、最低でも1,000万円の自己資金を用意しましょう。
生活費に関しては農水省が行っている「農業次世代人材投資資金」を利用できます。この資金は研修中は2年間、就農後は5年間の最大7年間150万円が毎年交付される制度です。
土地や機材は借金をして購入することもできますが、もし新規就農がうまくいかなかった場合に借金だけが残るリスクを考えると、ある程度の自己資金は用意することをおすすめします。
移住したい土地を決めよう
ここまで準備ができたら、移住する土地を決めます。土地を購入してしまった後では簡単に引っ越しは出来ませんし、長く暮らすことになるのできちんと調べて慎重に選びましょう。
同じわさびでも高級な生わさびを作りたいなら静岡県、加工用の生わさびなら長野県など地域によって栽培されるわさびが違います。
また土地によって人の気性も違いますので、長く暮らしていくことを念頭に様々な角度から検討してみることをおすすめします。
※都道府県別・種類別(水わさび/畑わさび)のわさびの生産量については以下の記事も参考にしてください。
また行政の支援の手厚さなども、土地を選ぶのに大事な決め手です。新規就農の際の師匠となる受け入れ農家を紹介してくれたり、土地の購入時に相談に乗ってくれるかどうかも、あらかじめ確認しておきましょう。
栽培や経営についてきちんと学ぼう
何となく「農業やりたいな」と考え、いきなり土地を購入してやみくもに農業を始める人も多いようです。うまくいく場合もありますが、ほとんどの人は中途で断念して都会に戻ってしまいます。
お金も体力も使うことですので、事前にきちんと栽培方法や経営方法を勉強しましょう。特に経営はとても大事です。
各自治体ではちょっとした農業体験から、1~2年の本格的な研修など就農支援をしています。各自治体のホームページなどに情報が載っていますので、まずは調べてみることをおすすめします。
各地のわさび農家の新規就農について
現在日本で栽培されているわさびは、主に3種類あります。1つは「水わさび」、皆さんが知っている芋のような形のすりおろして使う生わさびです。
2つめは「畑わさび」、これは主に茎や葉を収穫して漬物などに加工する原料として作られています。
3つめは「西洋わさび」、これは厳密にはわさびとは属が違う別の種類の植物ですが、粉わさびや練りわさびの原料として一番日本人に一般的に食べられているわさびです。
一言に「わさび農家」と言っても、地域によって栽培方法も栽培品種も違っています。では各地のわさび農家でどんな栽培をしているのか、新規就農の支援はあるかなど見ていきましょう。
県が推進!静岡県
静岡県では新規就農を目標にしている人を対象にした、「がんばる新農業人支援事業」を行っています。45歳未満の非農家出身者または第2種兼業農家出身者を対象に、農業技術や経営ノウハウを学べる1年間の研修です。
令和2年2月末の時点で、静岡県の農協(JA伊豆の国)管内で独立したわさびの新規就農者は2人いたそうです。1年間の研修の後は、農家になるための準備に対しての支援も積極的に行っています。
【畑わさび日本一】岩手県
岩手県は畑わさびの生産量が日本一です。そのほとんどを栽培している岩泉町では、新規就農希望者を対象にわさび栽培を支える「地域おこし協力隊」を随時募集しています。
任期は3年で、その間に畑わさびを生産する場所を選んで畑わさびを栽培することができれば、卒業後から畑わさびの収穫ができるようになるそうです。
平成29年度から受け入れを開始した協力隊は、約10名が活動中。「いきなり協力隊に入るのはちょっと」という人には2泊3日の「おためしプログラム」もあり、まずはわさび農家の見学や体験ができるようになっています。
長野県安曇野市
長野県安曇野市は水わさびの生産量が日本一で、わさび以外にもさまざまな農産物が作られています。水わさびは栽培に適した土地に特別なわさび田を作る必要があることから、ほとんど新規就農者はいないのが現状のようです。
安曇野市では残念ながらわさびに特化した新規就農事業は行っていないものの、安曇野市で農業を始めたい人のための「就農支援室」が設けられています。安曇野でわさび農家になりたいなら、まずは相談してみてはいかがでしょうか。
【就農パッケージ】島根県津和野町
島根県津和野町は「島根わさび」のブランド名でわさびの販売をしています。津和野町ではわさび栽培の担い手を募集する「津和野町就農パッケージ」が行われています。パッケージの内容は以下の通りです。
・1泊2日の農業体験プログラム
・3か月~1年の産業体験
・1~2年の受け入れ農家での実習
年間を通して収入を得られるように自営就農モデルを提案してくれるのが魅力で、中には1年の産業体験の後ですぐ就農する人もいるそうです。
まとめ~長い歴史のあるわさびは農家の努力で日々作られている
おろしたてのわさびはさわやかな香りとほのかな甘みの、辛いだけじゃなく深い味わいのある食べ物です。わさび農家の努力で作られるおいしい生わさびは、後継者不足や地球温暖化の影響で年々生産量を減らしています。
各自治体ではIターンやUターンの新規就農者の受け入れを支援しています。体験ツアーのある自治体もあるので、ぜひ一度わさび作りを体験してみてはいかがでしょうか。