圧力鍋のメリットは、短時間で柔らかい煮込み料理を作れること。けれども、豚の角煮を作ったら想像していたよりもパサパサになってしまった、硬くなってしまったという声をよく聞きます。
圧力鍋で柔らかくてジューシーな角煮を作るにはどのようにすればよいのでしょうか?圧力鍋で角煮をおいしく作るコツやレシピをご紹介します。
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目次
圧力鍋で角煮を作るとパサパサになりやすいって本当?!
豚の角煮を柔らかくジューシーに作るには、弱火で長時間煮込む方法が基本です。しかし、圧力鍋は高温で一気に加熱するのが特徴の調理器具なので、豚の角煮には向いていないという話も聞きます。
圧力鍋で豚の角煮を作ると、硬くてパサパサになりやすいという話は本当なのでしょうか?検証してみましょう!
煮豚の硬さに関係する要素はタンパク質と水分
豚肉は、部位によって多少異なりますが、約20%のタンパク質と、60~70%の水分と、15~20%の脂質とで構成されています。
このうち、角煮の硬さやパサつきに関係してくるのは、タンパク質と水分で、特にタンパク質が重要な役割をしています。
タンパク質の種類 | 豚肉中の割合 | 働き |
---|---|---|
筋原線維タンパク質 | 約65% | 筋肉を構成する繊維状のタンパク質。 加熱によって固まって収縮し、硬くなる。 |
筋基質タンパク質 | 約10% | 繊維状の筋肉を束ねる役割のタンパク質。コラーゲンなど。 加熱によって固まり、さらに加熱し続けるとゼラチンに変わる。 |
筋形質タンパク質 | 約25% | その他のタンパク質 |
豚肉のタンパク質は大きく分けて3種類あります。そのうち、加熱した肉の硬さに関係のあるタンパク質は、肉の大部分を占める繊維状のタンパク質と、これらを束ねる役割をしているコラーゲンです。
肉を煮込むと硬くなった後に柔らかくなる
角煮は生の豚肉を煮込んで作りますよね。生の豚肉を煮込むと肉の成分は次のように変化していきます。
肉の温度 | 煮込みによる肉の変化 |
---|---|
40℃前後 | 脂肪が溶け出す。 |
50~55℃ | 繊維状の筋原線維たんぱく質が凝固して収縮する。 |
60~65℃ | 繊維状のたんぱく質を束ねているコラーゲンが固まって収縮する。 たんぱく質が急激に収縮すると内部の水分を保持できなくなって水分(肉汁)が流れ出す。 |
70~85℃ | 熱によってコラーゲンの組織が壊れ、水に溶けやすく柔らかいゼラチンに変わる。 |
水に豚肉を入れて加熱すると、50℃くらいから肉のタンパク質はだんだん硬くなります。
さらに煮込み続けて肉の温度が75℃くらいになるとコラーゲンの組織が破れ、束ねられていた繊維状のタンパク質がバラバラになりホロホロとした食感になります。
また、熱によって硬く縮んだコラーゲンも水溶性で柔らかいゼラチンに変化します。つまり、時間をかけて煮込むことで、いったん硬くなった肉がまた柔らかくなっていくのです。
長時間煮込むと柔らかくなるがジューシーさは減る!
加熱によってタンパク質が硬く縮むと、肉の内部の水分量にも大きく影響します。豚肉には全体の約7割を占める多くの水分が含まれています。
肉を加熱して内部の温度が65℃を超えると、タンパク質が急激に縮んで内部の水分を保持できなくなってしまい、肉汁が外に流れ出します。その結果、肉の内部の水分が失われて肉がパサパサになってしまうのです。
豚肉に含まれるコラーゲンが多い部位では、煮込み続けることで水溶性のゼラチンが増えるため、肉自体がパサパサになってもゼラチンのジューシーさを感じられます。
しかし、コラーゲンが少ない部位では煮込み続けてもゼラチンが増えないので、パサパサに感じてしまうのです。
圧力鍋で肉を茹でるとパサパサになりやすい?!
水の沸点は100℃なので、普通の鍋で豚肉を煮込むということは100℃で調理していることになりますよね。それに対し、圧力鍋は中の気圧を高めることで、水の温度を120℃前後にまで上げて加熱できることが特徴です。
圧力鍋で豚の角煮を作ると、肉内部の温度が一気に上がるため、短い時間で繊維状のタンパク質の組織を壊し、コラーゲンはゼラチン化します。
そのため、通常の鍋で煮込むよりも短時間で肉を柔らかくすることができます。
では、圧力鍋で温度を急激に上げると、肉はパサパサになりやすいのでしょうか?
肉の内部の水分が抜けるのは、急激な温度変化によるものではなく、65℃以上という一定の温度になるから起こる現象です。
ですから、圧力鍋で作ったからといって、角煮が特別パサパサになるというわけではありません。
圧力鍋で作った角煮が硬くパサパサにならないコツ4つ
では、圧力鍋で角煮を作った場合、硬くパサパサにならないようにするにはどのようにすればよいのでしょうか?おいしく作れるコツをご紹介します。
ポイントその1:角煮に適した部位を選ぶ!
豚肉に含まれるコラーゲンは、長時間煮込むことで水溶性のゼラチンに変化します。ですから、角煮がパサパサにならないようにするには、コラーゲンの多い部位を選ぶことが大切です。
豚肉のなかでコラーゲンが比較的多めの部位は、肩肉(ウデ肉とも言う)、肩ロース肉、バラ肉などです。
コラーゲンは赤身よりも脂身に多いので、バラ肉は特におすすめ。特にトロトロの食感が好みであれば、赤身と脂身が1:1くらいの割合のバラ肉が適していると言われています。
また、もも肉は脂身が少ないので、バラ肉や肩ロース肉などと比べるとパサつきを感じやすいですが、逆に肉らしい食感を味わえるので、もも肉の角煮を好む人も多くいます。
ポイントその2:調味料を入れずに下茹でする!
圧力鍋で作る角煮のレシピには、豚肉を一度下茹でしてから調味料液で煮込む方法と、豚肉を下茹でせずに直接調味液に入れて煮込んでいく方法とがあります。
角煮ができるだけパサパサにならないようにするには、豚肉を下茹でする方法がおすすめです。その理由は、最初から調味液で豚肉を煮込んでしまうと、浸透圧によって内部の水分が出やすくなってしまうからです。
一度下茹でをしてから調味液で煮込むと倍の手間がかかってしまいますが、その分ジューシーで柔らかい角煮を作れます。
ポイントその3:下茹での際は加圧時間を十分に取る!
圧力鍋で作った角煮が硬くなってしまったという話を時々聞きますが、その原因のほとんどが豚肉を下茹でする際の加圧不足です。
加圧時間をしっかりと取らないと、繊維状のタンパク質の組織を壊してホロホロの状態にすることも、コラーゲンのゼラチン化も不十分になってしまいます。
下茹での際の加圧時間は圧力鍋の種類によって多少変わりますが、15~20分くらいを目安にするとよいでしょう。
また、加圧が終わっても圧力が下がるまでは、圧力鍋の内部では100℃以上で調理が続いています。急冷して圧力を下げるのではなく、自然に圧力が下がるまでそのまま放置しておきましょう。
ポイントその4:下茹でした煮汁をそのまま使う!
豚肉を圧力鍋で一度下茹でする場合、下茹でした煮汁は使わずに、下茹でした豚肉を水と調味料で新たに作った調味液で煮込むレシピもあります。
あっさりとした角煮を作りたい場合はその方法でもよいのですが、できるだけパサパサにならずにジューシーな角煮を作りたい場合は、下茹でした煮汁をそのまま使う方法がおすすめです。
豚肉を下茹でした煮汁には、コラーゲンから変わったゼラチンがたっぷりと溶け込んでいます。
そのため、煮汁に調味料を足して煮込むことで、煮汁に溶け出したゼラチンを調味料といっしょに豚肉に戻すことができるのです。
圧力鍋を使用したパサパサしない角煮の作り方をご紹介!
それでは、圧力鍋を使って短時間で作るパサパサにならない豚の角煮の基本レシピと、肉を柔らかくするためのちょっとした裏技をご紹介しましょう。
圧力鍋で作るジューシーな豚の角煮のレシピ
圧力鍋で下茹でと煮込みの両方を行うレシピです。圧力鍋で調理することで、繊維状のタンパク質の組織を崩してホロホロにし、さらにコラーゲンをゼラチン化することでジューシーに仕上げます。
【材料】(2~3人分)
★下茹で用★
豚バラブロック 400~600g
水 900cc
酒 100cc
長ねぎの青い部分 1本分
しょうが薄切り 3~4枚
★本煮込み用★
下茹でした豚肉
下茹でした煮汁 200cc
砂糖 大さじ2
みりん 大さじ2
しょうゆ 大さじ3.5
【下茹での方法】
1.フライパンを熱し、表面に焼き色が付く程度に全面を中火で焼く。
2.圧力鍋に、1の豚肉とその他の下茹での材料をすべて入れ、フタをして高圧にセットする。
3.沸騰するまでは鍋底から火が出ない程度の強火で加熱し、圧力がかかったら弱火にして15~20分加圧する。
4.火を止めて完全に冷めるまで数時間から一晩程度自然放置する。
5.固まった脂分をできるだけ取り除く。
【角煮の煮方】
1.下茹でした豚肉を2~3cmの厚さに切る。
2.圧力鍋に1の豚肉と他の材料をすべて入れ、フタをして高圧にセットする。
3.沸騰するまでは強火で加熱し、圧力がかかったら弱火にして10分程度加圧する。
4.火を止めて圧力が下がるまで自然放置する。
【ポイント】
・調味液で豚肉を加圧した後、完全に冷めるまで自然放置すると、さらにジューシーになり味も浸み込みやすくなります。
・でき上がった後に、お好みの濃さになるまで煮汁を煮詰めてもよいでしょう。
豚肉の保水性を高めてジューシーに仕上げる裏技2つ
ご紹介した基本のレシピは、加熱におけるタンパク質の変性の性質を利用して、豚の角煮がパサパサにならないように煮込む方法です。
その他に、豚肉に保水性を高める下処理をすることで、内部の水分の流出をできるだけ抑える方法もあります。
ブライニングで保水性を高める
ブライニングとは塩や砂糖を加えることで、肉の保水性を高める方法です。塩には、タンパク質を溶かす作用があり、肉の繊維状のタンパク質をほぐして保水性を高めます。
また、砂糖はタンパク質と結びつくことでタンパク質の凝固を遅らせて、内部の水分が流れ出にくいようにする作用があります。
ブライニングの方法は、ブライン液(水の量に対して5%の食塩と砂糖を水に溶かした液)に、豚肉を数時間漬け込んでおくだけ。
500g程度の豚肉ブロックなら、水200ccに塩と砂糖を10gずつ溶かして3~4時間程度漬けておけばよいでしょう。
脂肪分の少ない肉に対して効果を発揮しやすいので、もも肉や肩肉などの赤身が多い部位に使うとより効果的です。
pHを変えて保水性を高める
豚肉のpHは弱酸性で5.5くらいですが、さらに酸性側に傾けることで肉の保水性が上がり、肉を柔らかくする効果があります。
つまり、酸性の調味料や食品を入れて豚肉を下茹ですると、豚肉がしっとりと柔らかくなるというわけですね。
豚肉のpHを下げるために加えるとよい食材には、酢(pH2.5~3)、レモン(pH2.1)、梅干し(pH2~3)などがあります。
酢を使う場合は、基本のレシピの下茹での際に、酢100ccを水100ccと置き換えます。
酢の量が多いように感じるかもしれませんが、2度の加圧で酢は飛んでしまうので、酸味はそれほど感じず少しさっぱりとした仕上がりになります。酢には豚肉の臭みを消す効果もあるので一石二鳥ですね。
これは間違い!圧力鍋で作る角煮のパサパサを防げない方法3つ
圧力鍋で角煮がパサパサにならないようにする方法をインターネットで検索するといろいろな方法が出てきますが、なかには効果がない方法もあります。実践しても意味がないと思われる情報をいくつかご紹介しますね。
NGその1:長く煮込みすぎないようにするとよい
角煮を作る場合、煮込み時間が短いと硬くなるだけでなく、煮込み時間が長すぎると水分が抜けてパサパサになるので長く煮込みすぎないようにするとよい、という方法。
加熱によるタンパク質の性質を考えると、この方法が間違っていることがわかりますよね。
水分が抜けやすいのは、肉の温度が65℃に達した時点。長く煮込むと肉の組織が崩れる上に、コラーゲンをたくさん含んだ部位では水溶性のゼラチンが増えるので、むしろ角煮を柔らかく作れるという方が正解です。
NGその2:調味料を入れると硬くなるので調味料は最後に
調味料、特にしょうゆなどの塩分を含むものを入れた後に煮込むと豚肉が硬くパサパサになるので、調味料を入れた後は煮込まないようにする、という方法。
調味料を入れると浸透圧が働いて豚肉の水分がどんどん抜けるということを根拠にしているようですが、これも完全に間違いです。
加熱した豚肉は、熱によって細胞膜が破壊されるので浸透圧は働かなくなっています。ですから、調味料を入れた後に煮込んでも、豚肉の水分が抜けてどんどん硬くなるということにはなりません。
NGその3:豚肉が硬くなるのでみりんを使ってはダメ
みりんには煮崩れを防ぐ働きがあり、肉が硬くなるのでみりんを使わないか、もしくは仕上げに入れるとよいという方法。みりんに含まれるアルコールはタンパク質の凝固を促進するという性質を根拠にしているようです。
アルコールにタンパク質を凝固させる作用があることは事実ですが、肉の料理の場合にこれは当てはまりません。むしろ逆で、調味料としてアルコールを使うと、肉の保水性を高めて肉を柔らかくする作用が働きます。
つまり、みりんや酒は肉を硬くするどころか、肉を柔らかくしたり肉の臭みを取ったりする作用があるので、角煮にぜひ使いたい調味料と言えますね。
まとめ:圧力鍋で角煮を作るとパサパサになるわけではない!
豚の角煮がパサパサになる原因は、使う豚肉の部位や調理方法によるものであって、圧力鍋を使ったからパサパサになるわけではありません。
大切なのは、豚肉の部位を選ぶことと下茹でを十分にすること。この点を抑えておけば、角煮がパサつきにくくなるだけではなく、圧力鍋を使うことで短い時間で角煮を簡単に作れます。
最初は難しくても、使用する圧力鍋に適した加圧時間がだんだんわかるようになってくるので、ぜひ試してみてくださいね。