塩麹や甘酒が体にいいとブームになりました。最近では大豆を麹で発酵させた味噌も、腸活や美容、健康に効果があると注目されています。
麹菌の働きがなければ味噌も醤油も作ることができません。味噌は長い歴史を持ち毎朝一杯の味噌汁を飲むと長寿につながるなど、味噌の健康パワーが見直されています。
この記事では味噌と麹の関係や、麹の働きや役割、使い方について解説します。
目次
味噌と麹の関係って?
味噌は大豆と塩、米や麦と言ったシンプルな原料を麹で発酵させた食品です。麹には酵素が含まれており、酵素の働きで大豆のたんぱく質や米や麦の炭水化物が分解されます。
そのままでは消化吸収しにくい大豆の豊富な栄養が麹によって消化吸収しやすい形になり、味噌は離乳食にも使われています。
目立たないけれど縁の下の力持ちとして働いている麹と、味噌の関係について見ていきましょう。
味噌汁のつぶつぶって何?
「手作り味噌」や「つぶ味噌」を味噌汁にするとつぶつぶが浮いたり、お椀の底につぶつぶが残ることがあります。これは麹や大豆が溶け残ったもので、食べても体に害はありません。
新潟などの米どころの味噌は米麹を贅沢に使うために、味噌汁にすると米麹がまるで雪が舞うようにふわふわと浮かぶのだそうです。ある意味、高級品の証とも言えますね。
このつぶつぶが苦手な人は、味噌濾しを使うのがおすすめです。現在では市販の味噌のほとんどが、つぶをすりつぶして販売しています。
味噌の米麹、麦麹の違い
味噌の発酵には米に麹菌を植え付けた「米麹」と、大麦を使った「麦麹」、さらに大豆に直接麹菌を植えた「豆麹」の3種類が主に使われています。
それぞれの味や風味の違いは以下の通りです。
・米麹:味にくせがなくいろいろな料理に合わせやすい。味噌の8割は米麹を使っている。
・麦麹:さっぱりとした味と麦のさわやかな香りがある。
・豆麹:長期間発酵させることが多い。うまみとコクがあり煮込み料理に合う。
このほか、昔ながらの玄米を使った「玄米麹」や、大豆に黒大豆を使った味噌などさまざまな種類が存在します。
【生きている味噌】って何?
味噌にはパッケージに「生味噌」や「生きている味噌」などと書かれたものがあります。味噌が生きているとはどういうことでしょうか。
味噌はそのまま容器に詰めてしまうと発酵が進み、容器が膨らんだり破裂したりする場合があります。そのため出荷の直前に加熱したり酒精(アルコール)を加えたりして酵母などの菌の活動を弱めています。
生きている味噌は加熱や酒精を加えることをせず、菌がそのまま存在している味噌のことを言います。
麹の割合(麹歩合)って?
味噌に含まれる大豆に対する麹の割合を「麹歩合(こうじぶあい)」と言います。塩分が同じなら、麹歩合が高いと甘味やコクが増します。
蒸したり煮たりする前の乾燥した大豆の重さと米や麦の量が同じなら、麹歩合は10割(または10歩)です。
麹が多くなると甘味が増しますが、そのまま長く発酵させると糖分が分解されてしまうため短い発酵期間で完成させます。西京味噌や鹿児島の麦味噌などが代表的です。
麹が少ない味噌は長く発酵させることで大豆のたんぱく質が分解されてうまみ成分が作られるため、コクと深みのある味になります。津軽味噌や仙台味噌などが代表的です。
味噌を手作りするなら麹を多めにしよう
最近自宅で味噌を手作りする人が増えてきています。味噌を手作りするなら、麹は多めに入れるのがおすすめです。
理由の1つは麹を多くすることで早く発酵が進み、カビなどが発生する前に食べ始めることが出来る点です。味噌作りの大きな悩みの種であるカビ問題が解決するのはうれしいポイントですね。
もう1つは甘くておいしい味噌になることです。逆に甘い味噌が苦手な人は、麹を少なくしてじっくりと熟成させましょう。
※味噌の手作り方法についてはこちらで詳しく解説していますので、あわせて参考にしてみてくださいね。
味噌に使われる麹の豆知識
味噌は味噌汁以外にも毎日の日本の食卓に欠かせない調味料です。肉や魚を味噌に漬けて焼くと、柔らかくておいしくなります。これは味噌の酵素が肉や魚のたんぱく質などを分解するためです。
ここからは味噌と麹の豆知識や米麹の作り方などを見ていきましょう。
味噌用の麹ってあるの?
麹菌にはさまざまな種類があり、業務用の種麹には「味噌用」「醤油用」「清酒用」と細かく用途が分かれて販売されているものもあります。
さらに味噌用の麹にも全国各地の特色のある味噌にはそれぞれ独自の製法があり、種麹も独自のものが製造販売されています。
麹菌には分類上は同じ種類でも性質の異なる菌が数千種以上あり、それぞれの特性に合った使い道をメーカーで日々研究しているそうです。今よりおいしい味噌が作れる麹菌が発見されることもあるかもしれませんね。
【麹】と【糀】の違いって?
日本では「こうじ」の漢字表記は「麹」と「糀」の2種類があります。どちらも同じものを指しており、「麹」が中国から来た漢字で、「糀」日本で作られた国字の違いがあります。
・麹:中国では主に麦を使って麹を作っていたため麦の部首が使われた。
・糀:日本では主に米を使って麹を作っていたことと、花が咲くようにコウジカビが生える様子から生まれた。
あくまで筆者の個人的な感想ですが、「糀」の語源がとても美しくて日本人の美意識を感じます。
麹菌の種類とは
日本で使われる主な麹菌は以下の通りです。
・黄麹菌(Aspergillus oryzae):主に味噌、醤油、清酒に使われる。
・白麹菌(Aspergillus Kawachii):主に焼酎に使われる。
・黒麹菌(Aspergillus Iuchuensis):主に泡盛に使われる。
味噌には主に黄麹菌が使われます。日本では一番ポピュラーな麹菌で、和名は「二ホンコウジカビ」。2006年に日本醸造学会で麹菌を「国菌」に認定したそうです。
また黄麹菌は学名「Aspergillus oryzae(アスペルギルス オリゼー)」といい、漫画「もやしもん」で「A.オリゼー」として主人公よりも人気があったキャラクターのモデルになった菌です。
麹菌・酵母菌・乳酸菌の違いと役割
味噌は「麹菌」「乳酸菌」「酵母菌」の3種類の微生物が働いて作られています。
【麹菌】
・酵素を作る。
・酵素が大豆たんぱく質をアミノ酸に、小麦や米のでんぷんを糖分に分解。
【乳酸菌】
・有機酸を作り味噌の酸味や深みを生む。
・PHを下げて酵母菌が働きやすい環境を作る。
【酵母菌】
・糖分をアルコールに分解する。
・酵母菌の作ったアルコールと乳酸の作った有機酸が化学反応を起こし、味噌の良い香りを生み出す。
味噌の中の微生物は、麹菌→乳酸菌→酵母菌とまるでバトンリレーのように働いて複雑なうまさや栄養を作り出しているのです。
麹菌の働く温度は?
麹菌が繁殖するのに適した温度は、30~35度です。これより低い温度だと酵素の活動が鈍くなり、高い温度になると死滅してしまいます。
この温度による活性を利用して味噌の発酵速度を速めたのが「速醸」と呼ばれる醸造法です。通常半年から1年かかる味噌の熟成が速醸では2~3カ月で完了するため、現在市販されているほとんどの味噌は速醸で作られています。
味噌を開封したら冷蔵庫で保存するのは、低温で保存することで酵素の活動を鈍くして発酵を遅らせることができるからです。
そのまま常温で保存すると発酵が進み、酸味が出たり赤褐色に変色したりして味や風味が変わってしまいます。
米麹の作り方
米麹を手作りするのは少しハードルが高そうですが、オーブンの発酵機能やヨーグルトメーカーを使えば温度管理が楽で作りやすくなります。米麹が手作りできれば味噌だけでなく甘酒や塩麹も手作りできますよ。
【材料】
・米:2合
・種麹:1~2g
・蒸し器
・オーブンまたはヨーグルトメーカー
【作り方】
1.米は通常のご飯のときと同じように研ぎます。
2.ボウルなどにたっぷりの水と研いだ米を入れ、一晩浸けます。
3.ざるに米を移して2~3時間置き、水を切ります。
4.布巾などに米を包んで、蒸し器で30~40分蒸します。
5.米の硬さを確認して、芯が残っていたら蒸し時間を延長して芯が無くなるまで蒸します。
6.蒸した米をトレイや大きめの皿に広げて人肌くらいまで冷まします。
7.種麹をまんべんなく振りかけて、よく混ぜ合わせます。
8.保温容器に米を入れて、オーブンの発酵モードまたはヨーグルトメーカーで30~38度に温度設定をして48時間保温します。
9.20時間たったら一度米を出してほぐし、フタはせずタオルなどで上部を覆って保温容器に入れて保温します。
10.48時間後、米が白くなってお互いにくっついていれば成功です。まだ発酵が足りないようなら電源を切ったまま数時間置いて発酵が進むようにしてください。
【ポイント】
慣れないうちは少量ずつ作り、うまくできるようになったらたくさん作るようにするのがおすすめ。種麹は1kgに1gが標準の量ですが、多めに種麹を入れると失敗が少なくできますよ。
麹の働きで味噌は深みのあるおいしさになる
味噌のバランスのいいおいしさは、麹菌の働きによるものでした。
大豆は本来そのままでは消化しにくい食品ですが、麹菌によって分解されて消化吸収しやすい形になり、大豆の栄養分を余すことなく体に摂り入れることが出来るようになります。
日本の国菌にも指定された、日本人に最も身近な菌である麹。米麹は手作りも出来ますので、ぜひ一度チャレンジしてみてくださいね。