わさびは古来から日本に自生する、数少ない日本固有の植物です。きれいな水の流れる沢や、谷あいの水場などで自生しているのを見かけることがあります。
わさびは根をすりおろして寿司や刺身の薬味に使うほか、茎や葉も醤油漬けや練わさびの材料として使われています。わさびには捨てるところがないといわれるほど、どの部位もおいしく食べることができる食材です。
この記事ではわさびの旬や栽培方法、各地のわさび栽培の取り組みなどを詳しく解説します。
わさびの栽培と旬
みなさんは「わさび」と聞くと、どんなものを思い浮かべますか?一般的には芋のような根のような、緑色のわさびが頭に浮かぶ人が多いでしょう。
実はわさびにはみなさんの知っている芋のような「根わさび」のほかに、「葉わさび」や「茎わさび」、「花わさび」があります。ここからはわさびのそれぞれの部位の特徴や食べ方、旬の時期について見ていきましょう。
根わさびの特徴と旬
みなさんもよくご存じの、最もポピュラーなわさびの部位が根わさびです。根わさびは正確には「根茎(こんけい)」の部分で、地下茎の一種です。レンコンやショウガなども根茎と言われています。
わさびは多年草で数年かけて育ち、根わさびは土や砂の中にあるため年中収穫が可能です。特に辛みが多くなる11月~1月を旬としている場合が多いようです。
根わさびの食べ方はすりおろして寿司や刺身、そばなどの薬味に使うほか、千切りにして酢や醤油に漬けるのが一般的です。
葉わさびの特徴と旬
葉わさびは根わさびから生えた、茎の先の葉の部分のことを言います。中には茎と葉を合わせて「葉わさび」という場合もありますが、今回は葉と茎の部分を分けて解説します。
葉わさびの収穫は春から晩秋にかけて行われ、旬は3月~5月です。春の時期の葉わさびはやわらかくて味が良いので、食べるなら春のものがおすすめですよ。
葉わさびの食べ方はおひたしや汁物の薬味、葉をそのまま天ぷらにするのが一般的です。
葉わさびと似た名前の植物に「わさび菜」があります。わさび菜は「からし菜」の変異種で、葉わさびとは別の種類の植物です。わさびに似たツンとくる辛味と香りがあることから、わさび菜の名前が付けられました。
わさび菜は縁がぎざぎざしており葉の表面がちりちりと縮れているため、形の違いで葉わさびと見分けることは容易です。
茎わさびの特徴と旬
茎わさびは根わさびから生えた茎の部分で、葉わさびに比べてしゃきしゃきと歯ごたえがあるのが特徴です。葉わさびと一緒に使う場合もあります。
茎わさびの旬もやはり春の3~5月です。茎わさびは醤油漬けや酢漬けにするほか、細かく刻んで練りわさびの材料に使われます。
お寿司屋さんでは「なみだ巻」と言って、根わさびをすりおろしたものや茎わさびをそのまま細巻の材料に使うこともあるそうです。
花わさびの特徴と旬
花わさびは花の咲く前の、つぼみのついた茎を収穫したものです。わさびの花が咲くのは春のほんの一時期のため、栽培している地方以外ではなかなか見ることのないレアな食材と言われています。
花わさびの旬は2月~3月です。それ以外の時期はハウスもの以外は出回りませんので、もし見かけたら迷わず購入することをおすすめします。
食べ方は葉わさびと同じで、てんぷらやお浸しにしたり醤油や酢漬けにしたりします。鼻に抜ける辛味と香りが楽しめますよ。
わさびの栽培方法を知ろう
わさびは薬味にしたりしょうゆ漬けにして楽しめるけれど、買うと高価なイメージがあります。あまり家庭菜園で育てるイメージはありませんが、わさびを自宅で育てられるといいですね。
全国に自生しており強い植物のようですが、どんな栽培方法で育てられているのでしょうか。わさびはどのようにして栽培されるのか、家庭でも育てることができるのか、基本情報や収穫の様子など詳しく見ていきましょう。
畑わさびと水わさびの違い
わさびには大きく分けて「畑わさび」と「水わさび」の、2種類の栽培方法があります。
古来から行われてきたのは水わさびで、山から湧き出る伏流水や川の流れを利用した水耕栽培です。最近増えているのが畑わさびで、普通の植物と同じように畑や林の中にそのまま植える栽培方法です。
水わさびは根わさびが大きく育ち、さらに茎や葉も収穫できるため魅力的な栽培方法です。しかし常に新鮮な水が得られる場所でないと作れないことと、特別な設備を作るための設備投資や世話に手間がかかります。
畑わさびの方法で栽培すると、葉や茎を何度も収穫出来ます。どの場所でも栽培でき、手間がかからずにワサビを育てられるのが利点です。ただ残念ながら、根わさびはあまり大きくなりません。
植えてから収穫まで期間はどのくらい?
わさびを植えてからわさびを収穫するまで、一般的に1年半から2年かかると言われています。品種によっては1年程度で収穫できるものもあるようですので、購入するときにきちんと確認しておきましょう。
根わさびは一年中、葉わさびは春から秋にかけて収穫できます。葉わさびを一度に採りすぎると光合成ができなくなって枯れてしまいますので、様子を見ながら少しずつ収穫すると良いでしょう。
苗から?種から?
わさびは種があまり流通していない植物ですので、手に入るのは苗が多いでしょう。苗を入手した場合はそのまま植えれば大丈夫です。
種は春と秋に植えます。わさびの種は一度低温にさらされないと発芽しない性質をもっているため、春に植える場合はそのまま植えずに休眠打破(きゅうみんだは)を行います。
休眠打破は冷蔵庫などに一晩置いて、冷気の刺激を与えてあげることをいいます。秋に植える場合は休眠打破は不要です。
よく「わさび菜」「わさびリーフ」として販売されている種は、違う種類の植物ですので注意が必要です。また西洋わさびの種や苗も間違えやすいので気を付けましょう。
※西洋わさびについては以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
【意外と大事!】日照条件や温度管理
わさびには直射日光に弱い性質があります。直射日光が当たる場所で栽培する場合は、遮光シートを上にかぶせて日陰を作りましょう。
わさびが自生するのは山の中などにある沢の周囲で、たいていの場合は木が生い茂っている場所です。そのためわさびは、半日陰で育つようになったと考えられています。
わさびの好む生育温度は年間を通して10~18度程度で、涼しい環境を好みます。水耕栽培の場合は、13~15度程度の一定の水温であることが必要です。
静岡県の調査では、水温が20度以上の状態が3時間以上続くと根茎が腐敗するとの報告もあります。
植え付け時期は?
わさびの植え付け時期は、種で植える場合は春と秋です。夏と冬はわさびが休眠状態に入りますので、しっかりと休ませてあげましょう。
苗を植えるなら、9~10月頃が植え付け時期になります。冬の間気温が下がりすぎるとわさびが弱ったり枯れたりしますので、ハウス栽培がおすすめです。家庭で栽培するならビニールシートで覆うか、家の中に入れましょう。
栽培に適した地域って?
わさびの栽培で大切なのは温度を一定に保つことと、乾燥させないことです。露地栽培をするなら冬に気温が下がりすぎない地域で、山の上など夏に暑くなりにくい場所が適しています。
ハウスなどを使う場合は温度管理がしやすいので、どの地域でも育てられるでしょう。特に夏の暑さに弱いので、遮光シートなどできちんと温度の管理をする必要があります。
わさびの増やし方は?株分けはできるの?
わさびは種で増やすほかに、株分けをして増やすことが可能です。
種を取るには花を咲かす必要がありますが、花が咲くと栄養が種に行ってしまい肝心の根茎の育ちが悪くなります。必要最小限の株だけ花を咲かせ、あとの株は花が咲く前に取り除くのが普通です。
株分けの場合は栽培している間に株が分かれますので、収穫するときにこれを分けて小さいものをまた植えると増やすことができます。
長野県安曇野市での水わさび収穫の動画です。
1つの株が収穫時にはいくつもの株に増えていることがわかります。水わさびが沢の中でどのように生えているのかもわかりやすく、とても参考になりますね。
家庭で水わさびを栽培できるの?
日本人の食卓に欠かせない、アクセントの食材わさび。せっかくわさびを育てるなら、根茎を収穫して刺身や寿司に使ってみたいですね。根茎を大きく育てるには水耕栽培が適しています。
水耕栽培は地下水の湧水が豊かな場所や、川の近くの浅瀬でなければできないのでしょうか。ここからは家庭で水わさびを育てられるかどうか、その方法について詳しく見ていきましょう。
水わさびの栽培は難しい?
畑わさびに比べて、水わさびの栽培は難しいとの声が一般的です。実際ネットで検索してみると「わさびの水耕栽培始めました」といった内容の記事は非常にたくさん存在しますが、「水耕栽培で育てたわさびを収穫しました」との内容の記事はほぼ皆無です。
わさびは収穫するまでに2年近くの時間を要することや、温度管理の難しさなどから収穫までたどり着けない人が多いのでしょう。水わさびは気楽に育てて、簡単に収穫できる作物ではないようです。
わさびの辛味成分は厄介
水わさびの根茎を大きく育てるには、辛味成分「アリルイソチオシアネート」を洗い流せるかどうかがポイントです。
わさびは自分の周りにほかの植物が生えないように、アリルイソチオシアネートを土の中に出します。ところがわさび自身もこの辛味成分の影響で、根茎が大きくなれない現象が起こるのです。
そこで新鮮な水を流して辛味成分を除去してあげることで、わさびの根茎を大きくしてあげる必要があります。
川の浅瀬や水の湧き出る場所以外で水わさびの栽培をするなら、常に新鮮な水が供給できるようにポンプを設置する必要があります。
水わさびの基本の栽培方法
水わさびの基本の栽培方法は以下の通りです。種から育てる方法もありますが、今回は一般的な苗から育てる方法を解説します。植え付け時期は9~10月が適しています。
【用意するもの】
・わさびの苗
・容器
・ポンプ
・砂や砂利、スポンジなどわさびの苗を固定するもの
・水
・肥料
【植え付けの手順】
1.容器に砂や砂利、スポンジなどを置きます。
2.砂やスポンジに苗を植え付けます。
3.肥料を溶かした水を砂などから2cm位の高さになるまで貯めます。
【栽培のポイント】
・水温が8~15度になるように温度管理をしましょう。
・わさびは直射日光が苦手なので、遮光シートなどで薄日が当たる環境にしましょう。
・水を豊富に使える環境の場合は、ポンプなどを使って水を流す工夫をしましょう。
・わさびの辛味成分は爆気(ばっき)で揮発させることが可能との報告があります。常に酸素を供給するポンプを使えば、大量の水を消費しなくても辛味成分を取り除けそうです。
・気温が30度を越えると弱ったり枯れたりするので、気温の管理も大事です。
栽培キットを使った栽培方法
市販の水耕栽培キットを使えば必要な材料はすべて揃っているので、すぐに栽培を始めることができます。水耕栽培が初めての場合はわさびを栽培する前に、世話が簡単ですぐ収穫できる野菜を育ててみることをおすすめします。
クレソンはわさびと生育環境が似ていて栽培が簡単なので、練習にもってこいの植物です。クレソンを上手に育てられたら、本番のわさびに取り掛かるといいでしょう。
栽培キットは数千円のものから数万円のものもありますので、ご自分の環境に合わせて選んでください。
ペットボトルを使った栽培方法
水わさびはペットボトルで栽培できるのでしょうか。ペットボトルは水の取り換えが簡単に出来て、場所の移動も楽なので女性でも出来そうですね。
ペットボトルは入れられる水の量が少ないため、外気温の上下で水温が変化しやすい特徴があります。わさびは一定の温度を好むため、温度管理が少し難しいかもしれません。
また、わさびは2年かけて育つうちに株が増えて、収穫するときには大人が両手で抱えるほどのボリュームになります。
もしうまく育ったとしても、ペットボトルで栽培できるのは最初の数か月ではないかと考えられます。ペットボトルに入りきらないくらいになったら、もっと大きな容器を用意して移植や株分けをするといいでしょう。
水槽を使った栽培方法
水槽を使う場合は、ポンプを購入すると水の取り換えの手間が省けて楽です。金魚用のエアポンプは数百円から買えますので、ご自分の水槽のサイズに合ったものを購入しましょう。
あまり小さい水槽だと、わさびが育って大きくなった時に移植する必要が出てきます。環境が変わるとわさびが枯れる場合があるので、できれば移植しなくていいようなサイズの水槽を使うことをおすすめします。
井戸水?水道水?
水耕栽培に使う水は、水道水でも井戸水でも大丈夫です。水道水は料金がかかるため、流しっぱなしにして栽培するのは現実的ではありません。循環式のポンプを利用しましょう。
井戸水の設備があるなら、常に新鮮な水を供給できる設備を作ることができます。ただし水だけではわさびは育ちませんので気を付けましょう。適時肥料を入れてあげることで、根茎が大きく成長します。
家庭で栽培するなら畑わさびがおすすめ
水わさびの栽培は色々と気を使うことも多く、素人にはちょっと難しいかもしれませんね。家庭でわさびを育てるなら、畑わさびを栽培することをおすすめします。
わさびは直射日光が当たらなくても育つため、北側の場所にも植えられます。わさびは多年草なので2年ほど経った後は、葉や茎を何度も収穫ができるようになりますよ。
ここからは畑わさびの栽培方法について見ていきましょう。
畑に植えてみよう
畑でわさびを栽培するときは、土に川砂を混ぜて水はけと水もちを良くします。川砂が手に入らなければ培養土でもOK。苗を土に挿してあげれば植え付けは完了です。
夏は30度以上になると弱るため、遮光ネットなどで日差しを遮るなどの対応をしましょう。寒冷紗(かんれいしゃ)を使うと虫よけにもなり便利です。
水辺で育つ植物なので、水やりはこまめに行い乾燥しないように気を付けます。うまく育てば子株が増えるので、9~10月に株分けすることができますよ。
プランターを使った栽培方法
畑わさびはプランターでも栽培できます。培養土や土に川砂を混ぜたものをプランターに入れて、わさびの苗を挿します。
プランターは半日陰の場所に置き、温度管理と水やりを適切に行いましょう。わさびが大きくなって株の数が増えたら秋に株分けを行います。株分けをしない場合はそのまま茎や葉、根を食べることもできます。
畑わさびで根わさびの収穫はできないの?
畑わさびの栽培方法でも、うまくいけば根わさびの収穫ができる場合があります。
ネットなどでも「畑わさびを収穫してみたら思ったより根が大きく育っていた」との報告もあり、必ずしも畑わさびだからといって根が大きくならないわけではないようです。
「六方沢わさび」は畑わさびの栽培方法でも、根が大きくなりやすい品種です。水耕栽培でも育てることができますが、畑に植えても根が大きく育ち収穫を楽しむことができます。
各地のわさび栽培の取り組み
わさびの栽培と聞くと、山の奥やきれいな沢の浅瀬で行われているイメージがありますね。わさびの名産地といえば、大抵は清流や湧き水の出る場所でしょう。
近年様々な場所で、わさびの栽培を試みる動きが全国に広まっています。川も湧き水もない自分の地元が、わさびの名産地になる日が来るかもしれませんね。ここからは各地のわさび栽培の取り組みを見ていきましょう。
田んぼでわさびの栽培ができるのか
わさびを栽培する場所を「わさび田」と呼ぶくらい、米を育てる田んぼとわさびを育てる環境は似ています。田んぼでわさびは育てられるのでしょうか。
田んぼには給水口と排水口があるので、新鮮な水を取り入れることは可能のようです。島根県浜田市の「金城わさび」は田んぼだった場所を、わさび田に作り替えて栽培されています。
ただし収穫できるまで10年もかかったそうで、田んぼをわさび田に作り替えるのは簡単ではなさそうです。
ハウスを使ってのわさび栽培
ハウスを使ってのわさび栽培は、すでに始めている農家もあり現実的な方法です。ほとんどは畑わさびの栽培ですが、中にはポンプを使い水わさびを栽培している農家もあります。
ネットで検索すると、農家やセミプロ向けに数十万円や数百万円する水耕栽培用のキットの販売が行われています。農家の副業として他の作物を作りながら、わさび栽培も手がけている場合が多いようです。
林間は畑わさびに最適
近年研究が盛んに行われているのが、林間を利用したわさび栽培です。畑わさびの生産量全国日本一の岩手県岩泉町では、林間に植える畑わさびの栽培が盛んです。
林間にわさびを植える利点は、1つは木が生えているため遮光しなくても半日陰の状態が維持できることが挙げられます。
もう1つは林で生産される山菜の収穫が期待できるため、わさび栽培がうまくいかなかった場合にもリスクが少なく済むことです。
まとめ~わさびの栽培方法は変化している
わさびの栽培は気温が低くきれいな水が豊富にある場所でしかできない、難しいイメージがあります。近年畑わさびでも根わさびが育てられる品種が開発されるなど、わさびの栽培方法は少しずつ変わってきている印象があります。
家庭でも気温や水温の管理さえすれば、わさびが育てられるようです。水わさびは少しハードルが高いですが、畑わさびなら比較的取り組みやすいのでぜひ栽培してみてくださいね